オペレーションF[フォース] (5)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第5回

執筆者:真山仁 2023年3月25日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事(写真はイメージです)

仮想敵国は中国か――Xミッション会議の席上、統幕の井端と海自の樋口が鋭く対峙した。大臣官房・磯部の呻吟をよそに、梶野元総理は防衛費倍増、核武装発言で物議を醸す。

 

Episode1 防人の覚悟(承前)

 

3

 ゴールデンウィークが終わり、初夏の青空が広がるようになった頃、磯部は樋口から護衛艦「いずも」への試乗を誘われた。

 正式名、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」は、全長 248.0メートル、満載排水量26,000トンの海上自衛隊最大の艦船だ。

 いつかは乗艦してみたいと思っていた磯部に、断るという選択はなかった。

 翌日午前11時にヘリポートに足を運ぶと、既に海自の哨戒ヘリコプターUH-60が待機していた。

「いずも」は伊豆沖で訓練中で、市ヶ谷からヘリコプターで現地に飛び、2時間ほど見学をした後、市ヶ谷に戻るスケジュールだという。

 純白の制服制帽を身に纏った樋口が出迎えてくれた。今日も、新沼がお供している。

「実は、今日は会わせたい方がおられ、機内でお待ちです」

 まったく見当がつかなかった磯部は、ヘリに乗り込むなり、立ち尽くしてしまった。

「都倉[とくら]先生……」

 保守党の総務会長を務める都倉響子[きょうこ]は、与党・保守党の女性議員の星と言われる実力派だった。47歳ながら、既に当選回数は7回を数える。今日が初対面だが、マスクをしているとはいえ、大きな目だけで、見間違えることはなかった。

「はじめまして!」

 轟音を立てるヘリコプターのローターに負けじと、都倉は声を張り上げた。

 磯部も「お会いできて光栄です!」と返した。

 総務会長を務める都倉は熱心な財政再建派で、日本の財政健全化のための施策を次々と提案している。それだけに、彼女が護衛艦見学に時間を割くことに、違和感があった。

 もしかすると、「いずも」こそ、防衛省の無駄遣いの好例であると確かめるためだろうか。

 約1時間ほどの飛行で、前方に巨大な艦船が見えてきた。他の艦船とは異なる圧倒的な存在感を誇る「航空母艦いずも」がそこにいた。

「戦闘機でも充分使えそうね」

 都倉の声がヘッドフォンに響いた。

「いえ、あくまでもヘリコプター搭載護衛艦ですから」と樋口が慌てて訂正した。

 公式にはそうでも、あの艦船には海上自衛隊の悲願が詰まっている。……

国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!
カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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