
仮想敵国は中国か――Xミッション会議の席上、統幕の井端と海自の樋口が鋭く対峙した。大臣官房・磯部の呻吟をよそに、梶野元総理は防衛費倍増、核武装発言で物議を醸す。
Episode1 防人の覚悟(承前)
3
ゴールデンウィークが終わり、初夏の青空が広がるようになった頃、磯部は樋口から護衛艦「いずも」への試乗を誘われた。
正式名、ヘリコプター搭載護衛艦「いずも」は、全長 248.0メートル、満載排水量26,000トンの海上自衛隊最大の艦船だ。
いつかは乗艦してみたいと思っていた磯部に、断るという選択はなかった。
翌日午前11時にヘリポートに足を運ぶと、既に海自の哨戒ヘリコプターUH-60が待機していた。
「いずも」は伊豆沖で訓練中で、市ヶ谷からヘリコプターで現地に飛び、2時間ほど見学をした後、市ヶ谷に戻るスケジュールだという。
純白の制服制帽を身に纏った樋口が出迎えてくれた。今日も、新沼がお供している。
「実は、今日は会わせたい方がおられ、機内でお待ちです」
まったく見当がつかなかった磯部は、ヘリに乗り込むなり、立ち尽くしてしまった。
「都倉[とくら]先生……」
保守党の総務会長を務める都倉響子[きょうこ]は、与党・保守党の女性議員の星と言われる実力派だった。47歳ながら、既に当選回数は7回を数える。今日が初対面だが、マスクをしているとはいえ、大きな目だけで、見間違えることはなかった。
「はじめまして!」
轟音を立てるヘリコプターのローターに負けじと、都倉は声を張り上げた。
磯部も「お会いできて光栄です!」と返した。
総務会長を務める都倉は熱心な財政再建派で、日本の財政健全化のための施策を次々と提案している。それだけに、彼女が護衛艦見学に時間を割くことに、違和感があった。
もしかすると、「いずも」こそ、防衛省の無駄遣いの好例であると確かめるためだろうか。
約1時間ほどの飛行で、前方に巨大な艦船が見えてきた。他の艦船とは異なる圧倒的な存在感を誇る「航空母艦いずも」がそこにいた。
「戦闘機でも充分使えそうね」
都倉の声がヘッドフォンに響いた。
「いえ、あくまでもヘリコプター搭載護衛艦ですから」と樋口が慌てて訂正した。
公式にはそうでも、あの艦船には海上自衛隊の悲願が詰まっている。……

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