2030年、医療DXでアフリカに「約40兆円のヘルスケア市場」 日本企業の勝ち筋は「入口インフラ」である薬局を押さえること

執筆者:不破直伸 2025年12月18日
タグ: 企業戦略 健康
エリア: アフリカ
エジプトでは“そこそこ整ったインフラ”がデジタル技術によるイノベーションの土台となっている(C)futuristman/shutterstock.com
約15億人の人口を抱えるアフリカ大陸のヘルスケア市場は、2030年に2500億ドル規模まで拡大すると予想される。ただし、国ごとに社会インフラの成熟度が大きく異なり、薬局の店舗数では約1200人に1店という高密度のエジプトに対し、ナイジェリアは約6万人に1店と整備が遅れている。日用品・健康食品・コスメなどの販売拠点でもある薬局のネットワークは、日本企業が進出する際の「入口」となり得る重要なインフラだ。

スマホと処方箋があれば60分で薬が届くエジプト

 エジプトの医療の課題は“薬はあるのに見つからない”ことだ。高血圧患者が処方箋を持って複数の薬局を巡り、最終的に「在庫切れ」と告げられる事例は珍しくない。この在庫の不可視性が医療アクセスを長く阻んできた。

 エジプトの医療・物流インフラは高度ではないが、薬局密度、道路網、配送網、スマホ普及がそこそこ整っている。完全な未整備でも完璧でもない中間地帯こそ、デジタル投入時に利便性が急伸するポイントだ。

 ヘルステック「Chefaa」が大規模に展開できたのは、この“そこそこ整った街”が前提にある。薬局は点在するが在庫情報は断片的で、薬探しには無駄が多い。ここにデジタルの“交通整理”が入ると、人・店・配送が一気に統合され、スマートフォンのタップ一つで薬の所在を把握できる。

 ユーザーは処方箋をアップロードするだけで、周辺薬局の在庫を横断検索し、約60分でデリバリーを受けられる。「リアルタイム在庫検索 × 即時配送」というシンプルな構造である。

 共同創業者Rasha Rady氏によれば、Chefaaはエジプト国内で約1050店舗、サウジアラビアを含めると1300店舗超の薬局を束ねている。リアルタイム在庫で1000を超える店舗が同期しているという事実は、公的統計に現れにくい一次データであり、医療DXの議論に厚みを与える規模の実働ネットワークだ。

 Rady氏は「多くの患者は薬局を巡る負担が大きかった。処方箋のアップロードから60分で薬が届く体験の起点をつくることで、ストレスをほぼゼロにした」と語る。

そもそも薬局が足りないサブサハラ・アフリカ

Chefaaの共同創業者Rady氏(同社HPより)

「問題は薬が足りないことではなく、どこにあるか誰も知らないことでした。街に在庫はあるのに、デジタル上では存在しない。私たちは“見えない在庫(Invisible Inventory)”を可視化したのです」(Rady氏)

 背景には、薬局側の行動変容もある。当初は在庫情報共有への抵抗が強かったが、参加薬局の売上増が可視化されると態度が一変した。今では薬局が自ら在庫を更新し、更新行為そのものが販売機会になる。こうした設計が、エジプトではネットワークを自走的に拡張させている。

 一方、サブサハラ・アフリカ(SSA)は状況が異なる。多くの国で薬局の数が少なく、都市を離れれば正式な医薬品流通ルートが存在しない地域も広い。道路は途切れ、バイク配送の前提となる舗装路も限られる。価格や在庫の透明性は低く、偽薬問題(後述)も深刻だ。

 つまり、医療アクセスの課題が「つなぐ」ことで解決する段階にはなく、まず必要なのは道路・配送・薬局網・品質保証といった実体インフラの構築である。スマホとモバイルマネーは普及しているが、それは金融と購買のデジタル化に過ぎず、医薬品流通を含む“物の移動”は旧態依然としている。

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執筆者プロフィール
不破直伸(ふわなおのぶ) 国際協力機構(JICA)スタートアップ・エコシステム構築専門家。Project NINJA発起人。1982年生まれ。ボストン大学大学院・金融工学専攻。投資銀行やIT系のスタートアップ役員などを経て、ウガンダに移住。JICA本部にて勤務した後、現在はナイジェリア滞在。アフリカ諸国のスタートアップ・エコシステム構築支援に従事。
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