3. 州レベルでも脅かされる若者の自由
■禁書運動で「アンネの日記」も対象に
いま、州レベルでも多くの地域で若者の思想や表現の自由を深刻に脅かす問題が浮上している。子どもにとって「有害」とされた図書を公立学校や図書館から撤去する動きが全米各地で活発化しているのだ。非営利団体ペン・アメリカの調査によれば、2021年7月から2022年6月にかけて、32州の138の学校区で1648冊の本が規制対象となり、読めなくなった[18]。「アンネの日記」やノーベル文学賞作家のトニ・モリスンの「青い眼がほしい」なども対象とされた。性の目覚めや、父親による性的暴行のシーン等が問題視されたためだ。
この禁書の動きも、前編でも紹介した、保守的な州で広まるLGBTQ差別の動きと連動している。ペン・アメリカが禁書となった1648冊の内容を調査したところによると、最も多かったのは、主要登場人物やテーマがLGBTQ関連の図書だった。保護者から、「子どもたちの性自認に混乱をもたらす」といった抗議が寄せられたためだ。
■デサンティスを「親のための知事」と呼ぶ保護者団体
アメリカ国民はこの禁書の動きをどう見ているのだろうか。アメリカ図書館協会が2022年に実施した調査では、民主党・共和党支持に関係なく7割の有権者が禁書に反対し、保護者でも6割が反対だった[19]。ワシントンポスト紙が2021年から2022年にかけて各地の図書館に寄せられた図書の撤去要請を精査したところ、1人で10件以上の申告した人が、全体の3分の2を占めた[20]。アクティブな少数者が、禁書運動の中心となっていることがわかる。
この件で昨今注目を浴びているのが、「自由のための母たち(Moms For Liberty)」という保守派の保護者団体だ。学校で子どもにどのような教育を受けさせるかについての親の「自由」を掲げて禁書運動にも積極的に携わってきた。アメリカでは、学校の図書館にどのような本を置くかは各地の教育委員会が判断するが、「自由のための母たち」ら保守的な保護者グループは、通常は関心を浴びることがほとんどない教育委員の選挙に多額の資金を投じ、自分たちの求めに応じて禁書を実行に移す人物を大量に当選させてきた。
昨今、「自由のための母たち」は共和党の有力政治家との結びつきをますます強めている。6月の終わりには、2024年大統領選の共和党有力候補であるトランプやフロリダ州知事のロン・デサンティスなどを招いて大々的にイベントを開催した[21]。とりわけ、公立学校でLGBTQについて教えることを禁じる「ゲイと言うな法」など、反LGBTQ政策を強力に推し進めてきたデサンティスは、この団体に所属する母たちから「親のための知事」と呼ばれ、親しまれている。
保守派の保護者たちが中心となって進めてきた恣意的な禁書の動きに対し、Z世代はさまざまな抵抗を行っている。……
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