王毅と秦剛――習近平の忠実なる「戦狼外交官」の何が明暗を分けたのか(上)

執筆者:城山英巳 2023年8月23日
タグ: 中国 習近平
エリア: アジア
解任決定後、外交部公式サイトの外交部長欄から秦の情報や写真が削除された。(C)AFP=時事
習近平政権の戦狼外交を築いた王毅と秦剛は、ともに高く評価され異例の出世をはたしてきた。しかし今年7月、秦剛が表舞台から姿を消し、外交部長から解任されたことで、2人の明暗はくっきりと分かれた。一体何があったのか。

 

 約1カ月間も外交の表舞台から姿を消していた中国の秦剛外交部長(57)が7月25日、解任された。それから約1カ月が経つが、中国政府は、解任の理由を明らかにしていない。秦の後任には7カ月前まで外交部長だった前任の王毅・共産党中央外事工作委員会弁公室主任(党中央政治局委員)(69)を再登板させた。

 外交の裏側で一体何があったのか――。王毅と秦剛という、習近平国家主席の外交政策を引っ張った「2人の戦狼外交官」の軌跡を追うことで、秦剛失脚の真相と王毅外交の行方に迫る。

頼りないが、優しい報道官

 秦剛解任決定後、外交部公式サイトの外交部長欄から秦の情報や写真が削除された。通常の退任時と異なり、存在すら抹殺しようという処理から、噂されている香港テレビのニュースキャスターとの不倫という単純な醜聞だけでなく、習近平に対する背信行為と受け止められるような重大な国家安全問題が絡んでいるのではないかとの見方も浮上する。今後、正式な発表があっても真相は明らかにならないだろう。

 通信社の北京特派員だった筆者が秦剛と初めて会ったのは、今から18年前の2005年。小泉純一郎首相(当時)による靖国神社参拝で日中関係は緊張し、同年4月には中国全土で大規模な反日デモが吹き荒れた。同月から、報道官として外交部の定例記者会見に登場したのが、駐英大使館参事官から副報道局長兼報道官に栄転した秦剛だった。

 中国外交部報道官による記者会見制度は……

カテゴリ: 政治
フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
城山英巳(しろやまひでみ) 北海道大学大学院メディア・コミュニケーション研究院教授。1969年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、時事通信社に入社。中国総局(北京)特派員として中国での現地取材は十年に及ぶ。2020年に早稲田大学大学院社会科学研究科博士後期課程修了、博士(社会科学)。2010年に『中国共産党「天皇工作」秘録』(文春新書)でアジア・太平洋賞特別賞、2014年に中国外交文書を使った戦後日中関係に関する調査報道のスクープでボーン・上田記念国際記者賞を受賞。著書に『中国臓器市場』(新潮社)、『中国 消し去られた記録』(白水社)、『マオとミカド』(同)、『天安門ファイル-極秘記録から読み解く日本外交の「失敗」』(中央公論新社)、『日中百年戦争』(文春新書)などがある。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top