今週もお疲れ様でした。ヨルダン北東部の米軍拠点に対する無人機攻撃への報復として、2月2日、米軍の攻撃が始まりました。親イラン勢力への空爆はイラクとシリアの85カ所以上で行われたと米政府は発表しています。
米国もイランも直接的な軍事衝突は望んでいないとされるものの、今回の事態に繋がった1月28日の米軍への攻撃のように自国兵士の命が失われれば、米バイデン政権は国内世論の圧力からも報復を行わねばなりません。11月の大統領選に向け、予期せぬ事態の危険は高まります。
こうした中東情勢の緊迫化を、北朝鮮はどのように見ているか。思い出されるのは2010年3月の韓国哨戒艇「天安」沈没事件です。北朝鮮軍の魚雷攻撃によるとされた「天安」沈没では韓国兵に46名の死者が出ました。当時の李明博(イ・ミョンバク)韓国大統領は報復を決意し、事態のエスカレーションを恐れた米オバマ政権がこれを制止したとされています。しかしこの時、仮に米兵にも死者が出ていたらどうだったか。
金正恩(キム・ジョンウン)総書記は合理的判断を持ち、米国との直接対決には向かわないと考えられる一方で、現在、米国と北朝鮮の間に意思疎通はほぼ皆無と見られます。北朝鮮は最近、対南政策の定義を「統一を志向」から「敵対的な二国家関係」へと変えました。米国、韓国、北朝鮮それぞれの挑発や警告が大規模な衝突に発展するリスクは、やはり潜在的に高まっています。朝鮮半島を専門とするコンサルティング企業、米ペニンシュラ・ストラテジーの創業者でCIA出身のスー・ミ・テリーがFA誌に寄せた論考は、東アジアのエスカレーションリスクに焦点を合わせた注目すべき内容です。
フォーサイト編集部が週末に熟読したい記事、皆様もよろしければご一緒に。
The Next Global War【Hal Brands/Foreign Affairs/1月26日付
「今日、1930年代と同様に、国際システムは3つの急激な地域的課題に直面している。中国は、米国を西太平洋から追い出す作戦の一環として急速に軍事力を増強し、あわよくば世界的に突出したパワーにもなろうとしている。ウクライナにおけるロシアの戦争は、東ヨーロッパと旧ソビエト圏での優位性を取り戻そうとする長年の努力の残忍な結実である。中東では、イランとその代理人であるハマース、ヒズボラ、フーシ派、その他多くの国々が、イスラエル、湾岸諸国、そしてアメリカに対して、地域の覇権をめぐって血みどろの闘争を繰り広げている」
「このうち2つの挑戦はすでに熱を帯びている。ウクライナでの戦争は、ロシアと西側諸国との間の悪質な代理戦争でもある。[中略]昨年10月のハマスによるイスラエル攻撃は、テヘランが明確に祝福したわけではないにせよ、激しい紛争を引き起こし、重要な地域全体に暴力的な波及を引き起こしている。[中略]西太平洋とアジア本土では、中国は依然として、戦争に至らない程度の威圧に頼っている。しかし、台湾海峡や南シナ海のような微妙な場所での軍事バランスが変化すれば、北京はより良い選択肢を手にすることになり、おそらく侵略への意欲も高まるだろう」
中国ウォッチャーとして知られる米ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院特別教授、ハル・ブランズが米「フォーリン・アフェアーズ(FA)」誌サイトに寄せた「次のグローバル戦争」が注目を集めている。1月26日の掲載から1週間を経た2月2日の時点(米東部標準時午前0時)でも同サイトの人気記事ランキングのトップ5に入っている。
ドイツ、イタリア、日本が東欧、アフリカ、中国で軍事行動を起こしたことから第二次世界大戦が始まった。ロシアがウクライナに侵攻し、イランが中東の紛争を支援し、中国が軍事力を背景に台湾や周辺諸国を威圧する現状には、第二次大戦前夜との共通点が多いというのが、ブランズの問題意識のベースだ。
台湾危機が懸念されるなかでロシア・ウクライナ戦争が勃発した際にも、第二次大戦前夜との類似性を指摘する声はさまざまに出ていた。今回ブランズは、ハマスのイスラエル攻撃によって活発化した中東での紛争に関わるイランも構図に組み込むことで、類似性がさらに高まることを示す。
▼独伊日の枢軸3カ国は全体主義をもって自由主義と民主主義に敵対した
▼「持たざる者」が新秩序の樹立を狙い、「持てる者」に対して起こした闘争だった
▼当初、独伊日の思惑はそれぞれで各国間には対立もあったが、やがて同盟へと収斂していった
▼米国(とソ連)の参戦によって世界戦争と化し、世界は二分された
こうした第二次大戦の構図と現状との比較・検証を通じてブランズは、「最も重大なのは、東アジアでの戦争が他の地域で進行中の紛争と結びつけば、ユーラシア大陸の3つの主要地域が一度に大規模な暴力で燃え上がるという、1940年代以来の事態を引き起こす可能性がある点だ」と述べ、一方で次のようにも指摘する。
「このシナリオが実現しない理由はたくさんある。東アジアは平和を維持できるかもしれない。なぜなら、米国と中国には恐ろしい戦争を回避する大きなインセンティブがあるからだ。ウクライナや中東での戦闘が沈静化する可能性もある。しかし、悪夢のシナリオについて考える価値はある。なぜなら、たった一度の危機処理を誤れば世界はユーラシア大陸に紛争が蔓延しかねない状況であり、また、そうした事態への備えが米国にはあまりにも不十分だからである」
▼米国は2010年代、複数の「ならず者国家」を同時に相手とする戦略から最大の強豪国である中国一国を打ち負かすことに集中する戦略に切り替えた。そこからの再切り替えはまだ不十分
▼第二次大戦で連合国に勝利をもたらした米国の軍需生産能力は現在、衰えており、全面戦争となった場合、中国が優位に立つ可能性がある
▼「戦争がユーラシアの複数の地域を巻き込むことになれば、ワシントンとその同盟国は勝てないかもしれない」
このような見方を示し、ブランズは警鐘を鳴らす。
「大きな厄災はしばしば、実際に起きるまでは思いもよらない。戦略的環境が悪化している今こそ、世界的な紛争がいかに容易に起きうるものとなっているかを認識すべきだ」
The Dangers of Overreacting to North Korea's Provocations【Sue Mi Terry/Foreign Affairs/1月30日付】
ブランズの警告は、もちろん日本にとっても無縁ではない。たとえば、ロシア、中国、そしてイランと深い関係にあり、軍拡を続けて地域の緊張を高めるのみならず、最近では兵器の輸出によってウクライナや中東にまで影響力を及ぼす隣国=北朝鮮が、あらためて“今そこにある危機”としての度合いを高めているように見える。……
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