大地震頻発で露呈する「原発回帰」の虚ろな実態(上)

執筆者:杜耕次 2024年5月1日
エリア: アジア
再稼働に向けて地元の同意が得られる見通しはない[東京電力柏崎刈羽原発7号機の核燃料搬入作業(燃料装荷)=2024年4月18日](C)時事
今年に入って国内で起きた震度5弱以上の地震は22回を数え、昨年1年間の9回を既に大きく上回る。元日の「令和6年能登半島地震」では、北陸電力志賀原発が外部電源の一部を喪失したほか、道路の寸断による周辺住民の孤立化が事故時の避難に大きな障害となることも露わになった。再稼働に向けた拙速な動きとその頓挫が繰り返されている「原発回帰」は、改めて厳しい現実と向き合わざるを得ない。

「(地元の)同意を待たずにやるなんて考えられない」

 4月15日、東京電力ホールディングスが柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)7号機の原子炉に核燃料を装填する「燃料装荷」作業を始めたことについて、ある大手電力幹部はこんな感想を洩らした(2024年4月16日付朝日新聞)。「装荷」の完了後、核分裂反応を抑止している制御棒さえ引き抜けば、いつでも運転開始できる状態になる。通常は地元自治体(主に都道府県知事の判断)のゴーサインを受けてからの作業になるが、今回東電は新潟県の同意が得られる見通しが立たない中で「装荷」を強行した。

 柏崎刈羽7号機は、2011年3月に3基の原子炉がメルトダウン(炉心溶融)に至る事故を起こした福島第1原発の沸騰水型軽水炉(BWR)を大型化した改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)である。未曾有の大惨事から13年が経過しても未だ1グラムのデブリ(溶融核燃料)回収もできない現状で、事故機と同型の原子炉を再稼働させるのは、ただでさえハードルが高い。

 そのうえ、当事者の東電は事故後に経済産業省主導で作成した4度の再建計画でいずれも目標を達成できず、おまけに再稼働を目指す柏崎刈羽で東電社員が他人のIDカードで中央制御室へ不正侵入したり、故障した装置(10カ所以上)を30日以上機能しない状態で放置するなど、2020年以降にテロ対策関連の不祥事が次々に発覚。原子力規制委員会(規制委)は2021年4月に核燃料の移動を禁じる是正措置命令(事実上の「運転禁止命令」)を出した。これにより、2017年12月に規制委の安全審査に合格していた柏崎刈羽6、7号機の再稼働は一段と遠のき、その「運転禁止命令」が解除されたのは2023年12月27日だった。

再稼働で期待する収支改善

 東電にとって「再建の切り札」とされる柏崎刈羽原発の再稼働を認めるかどうか。カギを握るのは新潟県知事の花角英世(65)だ。県内屈指の進学校である県立新潟高から東大法学部に進み、卒業後の1982年に運輸省(現国土交通省)に入省。運輸相時代の二階俊博(85)の大臣秘書官を務めたほか、観光庁総務課長や大阪航空局長などを歴任した花角は、泉田裕彦(61、知事任期は2004年10月〜16年10月)、米山隆一(56、2016年10月〜18年4月)といった2人の前任者に比べれば、東電や原発に対するアレルギーは強くない。

 余談になるが、福島原発事故発生時に新潟県知事だった泉田は県立三条高から京大法学部を卒業し、通商産業省(現経産省)を経て、42歳の若さで知事になった。霞が関のエリート官僚出身というキャリアは花角に似ている。だが、東電と原発へのスタンスは大きく異なる。2007年7月に起きた新潟県中越沖地震(マグニチュード6.8、最大震度6強)で柏崎刈羽3号機の変圧器周辺で火災が起きたほか、6号機周辺で放射能を帯びた水が流出するなど重大事故寸前の事象が数々発生したにもかかわらず、東電の対応はことごとく後手に回った。

 知事として特に同社の貧困な情報開示姿勢に危機感を抱いていた泉田は、隣県で起きた福島事故を目の当たりにし、当然のことながら4年前の中越沖地震当時の東電の対応を思い起こした。遠からず柏崎刈羽の再稼働問題に直面すると察した泉田は、2013年に「原発の安全管理に関する技術委員会」と名づけた有識者会議を立ち上げ、福島事故について新潟県独自の検証を始めた。

 現在自民党所属の衆院議員である泉田は「(福島第1原発)4号機が爆発して少し落ち着いた後に(東電の)柏崎刈羽の幹部に説明に来てもらったが、メルトダウンしているんでしょうねと聞いたら、していないと。最初から分かっていたはずなのに、原発立地県の知事にこういううそをつく」(2024年4月19日付東京新聞)と今でも東電の企業体質に対する不信感を隠さない。

 その泉田の後任知事だった米山は、2021年10月の衆院選新潟5区で泉田に競り勝ち、現在は立憲民主党所属の衆院議員(泉田は比例復活)だ。党派の違いはあるとはいえ、東電と原発に対する懐疑的なスタンスには共通点が多い。

 ロシアのウクライナ侵攻前後からエネルギー価格は跳ね上がり、火力発電への依存度が大きい日本の電力大手の経営を直撃した。かつて原発1基当たりの収支改善効果は年間500億円と言われていたが、ここに来て柏崎刈羽原発は「1基の再稼働で年1200億円の収支改善につながる」(2024年2月1日付日本経済新聞)とされる。……

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