日立、好決算の原動力「Lumada(ルマーダ)」は果たして本物か

執筆者:杜耕次 2023年11月24日
エリア: アジア
日本国内では押しも押されもせぬ「勝ち組」だが……[日立製作所の入社式であいさつする小島啓二社長(壇上)=2023年4月3日、東京都新宿区](C)時事
「改革を有言実行できる唯一の日本企業」と評価される日立は再び世界で戦えるか。海外の有力重電が力を入れる産業向けIoTビジネスは日立においても牽引役だが、そのプラットフォーム「Lumada」が、仏シュナイダー、スイスのABB、独シーメンスの「3強」によるデフォルト争いに割って入ることはないだろう。その理由は――。

 金融偏重型のコングロマリットだった“ウェルチ・モデル”の米ゼネラル・エレクトリック(GE)が凋落した後、世界の重電産業の覇権をどこが握るのか――。2023年も暮れようとしている現在、ポストGEの「本命」といわれる独シーメンスに対し、日本勢では日立製作所が勢いを増している。

 国内重電3社のうち、東芝はアクティビスト(物言う株主)との闘いの挙げ句に上場廃止に追い込まれ、三菱重工業は国産ジェット機「MSJ」の開発失敗以後沈滞ムードが拭えない。一方で日立はグループ構造の転換を進め、2023年3月期に6491億円の連結純利益を上げ、3期連続で最高益を更新した。今年8月末には株価が35年ぶりに上場来高値を更新。「改革を有言実行できる唯一の日本企業」(アジア系外国人投資家)と評判は上々だ。

 だが、日立の高評価はライバルの躓きや低迷、さらに為替動向などで水増しされている感が拭えない。10月27日の第2四半期(4〜9月期)決算発表時に日立は、通期(2024年3月期)の売上高が従来予想を3500億円上回り、純利益は200億円上振れする見通しを明らかにした。しかし、数字の中身を精査すると、売上高の上方修正幅の7割弱、EBITA(利払い・税引き・一部償却前利益)の約6割が「円安の影響」なのである。

 2016年に鳴り物入りで始めたDX(デジタルトランスフォーメーション)支援事業「Lumada(ルマーダ)」は、その前年にGEが立ち上げた新会社「GEデジタル」などに追随した、今や世界のインフラ産業で大流行のIoT(Internet of Things=あらゆるモノがインターネットにつながる)ビジネス。2024年3月期に「ルマーダ」関連売上高が前期比18%増の2兆3100億円に達すると胸を張るが、国内に比べ海外での浸透には高いハードルがあり、欧米の競合相手に優位を保っているとは言い難い。

シュナイダーエレクトリックの躍進

 3年後に3.4兆ドル(約510兆円)に達すると予測される世界のDX市場では、いち早く米アクセンチュアや米コグニザント・テクノロジー・ソリューションズ、インドのタタ・コンサルタンシー・サービシーズといったコンサルティング会社が戦略立案で顧客を獲得している。だが、工場・設備への装備から日々の運営までの実用化の段階になると、製造業から手を伸ばすプレーヤーの強みが出てくる。一日の長があるのはやはり欧米勢だ。

 ナポレオン戦争の英雄で、その後1830年の7月革命で誕生したオルレアン家のルイ・フィリップによる王政下で陸軍大臣を務めたドイツ系フランス人のヴァージル・シュナイダー。その従弟(いとこ)で銀行マンだったアドルフ(1802〜45年)とユージーン(1805〜75年)の兄弟が1836年に経営危機に陥っていたクルーゾ鋳造所を再建し、2年後に立ち上げた会社がパリ近郊に本社を構える世界的な重電メーカー「シュナイダーエレクトリック」の前身である。発足当初の社名は「シュナイダー・クルーゾ」だった。

 シュナイダー兄弟は鉄鋼にとどまらず、鉄道機関車や造船、発電機のほか、大砲などの軍需部門に事業の裾野を広げていった。日本とも縁が深く、第1次世界大戦後に列車砲を日本陸軍に売り込み、1931年にはシュナイダー製の砲身を搭載した射程距離50.12キロという「九〇式二十四糎列車加農」が東京湾要塞砲として配備されたほか、1998年に東芝とインバーター(変換制御回路)を共同開発する「東芝シュネデール・インバータ」(名古屋市)、2008年には富士電機グループと電力用制御機器を製造する「富士電機機器制御」(埼玉県鴻巣市)を共に合弁で設立している。

 第2次大戦後、GEやシーメンス、それに日立、東芝、三菱重工といった日本の重電3社と同様、1970年代まで同社は重工業のコングロマリット路線を歩んでいたが、1980年代以降は経営資源を電力分野に集中する方針を打ち出し、鉄鋼や造船などその他の事業を次々に売却。1999年に現社名に変更した。日立金属(現プロテリアル)、日立電線(同)、日立化成(現レゾナック)、いわゆる「グループ御三家」の再編・売却を前期までにようやく終えた日立に比べ、事業再編が四半世紀早かったといえる。

 シュナイダーエレクトリックの2022年12月期の売上高は342億ユーロ(約5兆5000億円)。シーメンスの720億ユーロ(約11兆5900億円、2022年9月期)や日立の10兆8800億円(2023年3月期)に比べ半分程度だが、2013年以降の10年間で100億ユーロ(約45%)を上積みし、その成長力の高さに注目が集まっている。

 また、企業価値算定の指標である連結売上収益EBITA率で見ると、日立の8.1%、シーメンスの9.9%に対し、シュナイダーは17.6%と収益力は断トツだ。しかも最近5年間は15%以上を維持し、業績は安定。株式時価総額(11月23日現在)は937億ユーロ(約15兆円)とシーメンス(1204億ユーロ=約20兆円)には及ばないものの、日立(9兆5600億円)の約1.6倍の企業価値を有している。

「ABB(アセア・ブラウン・ボベリ)やシュナイダーは老舗の電機メーカーなのに、ごく当たり前の製品で利益を稼いでいる」

 日立製作所前会長の中西宏明(1946〜2021年)は社長時代、日立の収益力水準に不満を述べながら、収益モデルとしてこの2社を挙げていた。

 ABBはその後、2018年に送電力部門を7000億円で日立に売却するなど重電分野を縮小し、ロボット分野が主力のメーカーへ変身しつつある。

 一方のシュナイダー。昨今の高成長ぶりは前述した通りだが、前世紀末の事業再編に加え、その足がかりになったのは2006年5月から今年5月まで17年間にわたり最高経営責任者(CEO)を務めたジャンパスカル・トリコワ(60)が進めたデジタルサービス拡大戦略である。

GEは惨敗した市場でしのぎを削る「3強」

 1963年生まれのトリコワは……

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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