GEの「脱・コングロマリット・ディスカウント」なぜ東芝はできないか(後編)――「島田・池谷」二頭体制ゆえの課題

巨額のM&A(合併・買収)の失敗に経営トップの不作為が重なり、ゼネラル・エレクトリック(GE)が業績悪化の長いトンネルに入ったのが10年前。いわゆる「GEクライシス」の始まりは、同社“中興の祖”ジャック・ウェルチ(1935〜2020年)肝煎りの金融子会社GEキャピタルを巡る不動産評価損などを計上した2015年1〜3月期に遡る。同期の最終損益は136億ドル(約2兆円)の赤字に転落した。
振り返れば、19世紀末の創業期からGEと同業の師弟関係にあった東芝に対し、粉飾決算の内部告発を受けた証券取引等監視委員会が検査を開始したのが2015年2月。ほぼ同じ時期に「創業以来最大の危機」に見舞われた両社だが、10年後の現状を見れば、大きな落差がある。 ※本記事末尾に両社の「経営危機」発覚以降の経緯を年表にまとめました
GEは分社化で時価総額2.9倍
前回までの本連載でも触れたように、危機勃発から3年半余りが経過した2018年10月、GEは業績悪化に歯止めが掛けられない生え抜きのCEOを更迭し、社外取締役だったローレンス・カルプ(62)を後任に据えた。米機械メーカーのダナハー(ワシントンDC)のCEO時代にリーン生産方式(トヨタ生産方式)で同社を飛躍的に成長させたカルプは、ウェルチとその後任のジェフ・イメルト(69)がM&Aで傘下に収めてきたグループ会社群のうち、「ノンコア(非中核)」と位置づけた子会社・系列会社の売却を加速。その整理が一段落した2021年11月に会社を3分割するスピンオフ計画を打ち出し、2023〜24年にGEヘルスケア・テクノロジーズ(医療機器)、GEベルノバ(エネルギー)、GEエアロスペース(航空機)の3社が発足した。
3分割の目的は意思決定のスピード向上に加え、成長分野への投資が不採算部門の損失処理で阻害されて業績が低迷する、いわゆる「コングロマリット・ディスカウント」(複合企業の企業価値低迷)の解消である。狙い通り、分割後の3社の業績はいずれも堅調。2025年3月18日時点の3社合計の株式時価総額は3397億ドル(約51兆円)。2018年の底値(時価総額約600億ドル)から見ると5.7倍、2021年11月の分社化発表直前(同1190億ドル)と比較しても2.9倍に伸びている。「GE再生は完了した」というのが現在のマーケットの共通認識になっている。
アクティビストと衝突した「同友会人脈」の経営体制
片や、東芝の再生は一向に進まない。2017年3月の米原発子会社ウエスチングハウス(WH)の破綻で債務超過に陥った東芝は、同年12月に実施した6000億円の第三者割当増資で信用不安を回避したが、その代償として国内外約60の投資ファンドが出資者に名を連ねることになり、これらアクティビスト(物言う株主)との軋轢に悩まされ、確固たる経営体制を確立できなかった。
GEは、前述のように2018年10月にCEOの座についたカルプが会社3分割による再生の道筋を切り開き、旧GE本体を継承して2024年4月に社名変更したGEエアロスペースのCEOとして、引き続き経営の舵取りを担っている。これに対し、東芝の経営トップである社長は2018年から現在に至るまで綱川智(69)→車谷暢昭(67)→綱川→島田太郎(58)と目まぐるしく入れ替わっている。
東芝の混乱は取締役会を率いる議長の人事にも波及した。WH破綻後の債務超過の最中である2017年10月に東芝の取締役会議長に就任した小林喜光(78)は、三菱ケミカルホールディングスの社長、会長を歴任し、2015〜19年には経済同友会代表幹事も務めた大物財界人だった。しかし、2020年7月の株主総会でその同友会人脈で東芝に引き入れた元三井住友銀行副頭取の車谷の社長再任(総会で議決事項となるのは取締役再任)が危うくなり、慌てた経済産業省が一部の外国人投資家に「東芝の総会が劇場型になるのは望ましくない」と伝えたことが「海外株主への不当な圧力」と指摘され、経産省との連携を標榜していた小林は苦しい立場に追い込まれた。
結局、その2020年7月の株主総会で小林は退任し、後任の取締役会議長には、やはり同友会人脈の永山治(77、中外製薬名誉会長)が就任したものの、アクティビストからの集中砲火は止まなかった。翌2021年4月に社長(当時)の車谷がかつて在籍した英投資ファンドとの不透明な関係を追及されて辞任を余儀なくされ、同年6月の株主総会では永山の取締役再任が否決されてしまう。社長以下の執行役にも、その執行役を監視する取締役にも人材を欠いた東芝の経営は、以後一段と混迷の色を濃くしていく。
気付けば生え抜きに人材なし
GEでも取締役会の責任を問われる局面がなかった訳ではない。

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