GEの「脱・コングロマリット・ディスカウント」なぜ東芝はできないか(前編)――GEの救世主

執筆者:安西巧 2024年12月5日
タグ: マネジメント
エリア: 北米
GEの企業価値は約6年間で5倍に[2024年4月2日、米ニューヨーク証券取引所(NYSE)で開会ベルを鳴らすカルプ氏(左から3人目)。その右はGEベルノバのスコット・ストレイジックCEO。GEはこの日、会社3分割を完了して新スタートを切った](C)AFP=時事
GEと東芝――2つの巨大エレクトロニクス企業が深刻な経営危機に陥ったのは2017年。双方とも巨額を投じたM&Aの失敗で破綻の瀬戸際に追い詰められた。両社は膨張した子会社群を整理・再編し「コングロマリット・ディスカウント」(複合企業の企業価値低迷)を解消するという共通の再建戦略を打ち立てたが、本体の3分割をはじめ大掛かりなグループ再編を終えたGEに対して、東芝は再建の道筋が定まらない。この違いはどこにあるのか、前編ではGEのローレンス・カルプに着目する。

「エンジンの納品が前期比20%以上改善するなど、大きな進歩を遂げた。独立企業としての最初の年に堅実な成果を挙げられると確信している」

 10月22日、2024年7〜9月期決算を発表した米GEエアロスペース会長兼最高経営責任者(CEO)のローレンス・カルプ(61)は、米ボーイングの長期ストや熟練労働者不足によるサプライチェーンの混乱など航空機市場に逆風が吹く中、受注が前年同期比28%増、調整後EPS(1株当たり純利益)が同25%増と前四半期までの好調な業績が通期も続くことを自信たっぷりに語った。

 カルプが「独立企業としての最初の年」と殊更に強調したのには理由がある。GEは2023年1月に医療機器事業を「GEヘルスケア・テクノロジーズ」(GEHC)に分離・独立させたのに続き、2024年4月にはエネルギー事業を「GEベルノバ」(GEV)に分社化するとともに、GEの存続会社として残った本体を航空・宇宙事業を手がける「GEエアロスペース」に商号変更。このいわゆる「会社3分割」は、2018年10月にGE史上初めて外部からCEOに迎えられたカルプが採用した経営再建策であり、ジャック・ウェルチ(1935〜2020年)、ジェフ・イメルト(68)両CEO時代の多角化で膨張した事業分野を整理・再編し、組織の簡素化によって意思決定を迅速にする狙いがあった。その「3分割」が完了し、GEにとって新たな時代が始まるとの意味合いを印象づけたかったのだろう。

「ダナハー」で実現した“再生神話”

 1980年代初頭にトップの座についたウェルチはGEキャピタルなど金融分野に事業の裾野を広げ、高株価経営で一躍「名経営者」としての名声を得たが、2008年のリーマン・ショック前後から過大な金融債務がGEの業績を圧迫した。2001年にウェルチからCEOを引き継いでいたイメルトは製造業への回帰を志向し、2015年にフランスの重電大手アルストムを97億ユーロ(当時の為替レートで約106億ドル、約1兆2800億円)を投じて買収。だが、温暖化対策の高まりを背景に主力のガス・石炭火力発電タービンの需要が世界規模で減少し、GEは2018年にアルストム事業部門を含む電力関連で220億ドルの「のれん代」減損償却を余儀なくされた。

 この間、金融事業縮小に伴う評価損計上などもあり、GEは2017年10〜12月期に98億2600万ドル(同約1兆円)、2018年7〜9月期に228億ドル(同約2兆5700億円)と四半期決算で巨額の最終赤字を計上する。アルストム買収失敗の責任を負わされたイメルトは2017年8月に解任され、ウェルチ時代からM&Aで辣腕を振るったジョン・フラナリー(62)がCEOを継いだものの、危機打開策を打ち出せず、在任わずか1年2カ月でその座を追われた(詳細は本連載第5回、第6回参照)。

 ウェルチの全盛期の20世紀末に5000億ドルを超えていたGEの株式時価総額は、2018年には一時600億ドルを割る水準にまで暴落した。フラナリーが取締役会で電撃解任された理由は、まさに「株価暴落」に歯止めを掛けられなかったことにある。取締役の背後にいるGEの株主たちが後任CEOのカルプに期待したのは、古巣の会社「ダナハー」(ワシントンDC)で実現してきた数々の“再生神話”だった。

ニデック、京セラとの戦略的類似性

 ダナハーの創業者は米東部メリーランド州出身のスティーブン・レイルズ(73)、ミッチェル・レイルズ(68)の兄弟だ。2人は1984年に同社を設立。当初は資金繰りが苦しくなった企業が発行するジャンク債の売買で収益を上げていたが、そのうち自分たちは経営難の製造業を立て直す能力に優れていることに気づき、再生事業を本業に据えることにした。因みに「ダナハー」の社名は2人がよく釣りに出かけていた米北西部モンタナ州の小さな川から思いついたという。

 再生事業の手法は独特だ。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
安西巧(あんざいたくみ) ジャーナリスト 1959年福岡県北九州市生まれ。1983年早稲田大学政治経済学部政治学科卒、日本経済新聞社入社。主に企業取材の第一線で記者活動。広島支局長、編集委員などを歴任し、2024年フリーに。フォーサイトでは「杜耕次」のペンネームでも執筆。著書に『経団連 落日の財界総本山』『広島はすごい』『マツダとカープ 松田ファミリーの100年史』(以上、新潮社)、『さらば国策産業 電力改革450日の迷走』『ソニー&松下 失われたDNA』『西武争奪 資産2兆円をめぐる攻防』『歴史に学ぶ プロ野球16球団拡大構想』(以上、日本経済新聞出版)など。
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