「規制業種」日本生命から経団連会長で問われる「物言わぬ財界総理」の存在理由

執筆者:安西巧 2025年1月8日
タグ: 財界
エリア: アジア
生保という「非営利法人」出身の筒井氏はグローバル競争をリードできるか[右は清水博・日本生命現社長(当時)=2018年1月25日](C)REUTERS/Kim Kyung-Hoon
次期経団連会長に日本生命保険会長の筒井義信氏が就任する。規制当局に頭が上がらぬ金融出身に「財界総理」は務まらないとの了解が破られ、十倉雅和現会長は「驚くほど同じ考え」の持ち主を後継者に得たと説明する。経団連会長が「物言わぬリーダー」と揶揄されるようになって久しいが、アメリカでは挑発と脅しでディールに勝つことを信条とするトランプ大統領が自国製造業本位の政策を進めるだろう。超ドメスティックな企業から、しかも「もう製造業にこだわる時代ではない」との認識で行うこの人事、あらゆる意味でずれてはいないか。

 経団連会長を「財界総理」と呼ぶ機会がめっきり減っている。かつて「経済一流、政治三流」といわれ、疑惑や汚職に塗れた政治家を見下ろしていた財界の総本山は、バブル後の「失われた30年」の間に変質。昨今は胆力・知見・人脈に乏しい凡庸な経営者が「物言わぬリーダー」などと批判を浴びながら、日本を代表する会員企業約1500社から成る組織を維持している。

 2025年5月に2期4年の任期を終える現会長(住友化学会長)の十倉雅和(74)は先頃、次期会長に日本生命保険会長の筒井義信(70)を指名。下馬評にも上がらなかったダークホースの抜擢に、新鮮味を期待する声が上がるかと思いきや、財界内外であちこちからブーイングが聞こえてくる。

金融は「ナンバー2まで」とされた理由

「経団連会長に筒井氏 日生会長、金融から初」

 24年12月17日付朝刊1面トップで人事をスクープした日本経済新聞の記事の見出しはこうだった。

 なにしろ、異例尽くめの抜擢である。初代の石川一郎(在任期間1948年3月〜56年2月、前職は日産化学工業社長)以来15人の歴代経団連会長のうち、製造業出身でないのは3代目の植村甲午郎(1968年5月〜74年5月、ニッポン放送社長)と7代目の平岩外四(1990年12月〜94年5月、東京電力会長)の2人だけ。今年5月29日の定時総会で承認されれば筒井は経団連史上3人目の非製造業出身のトップとなり、さらに金融界から初めての選出となる。

「銀行でも、損保でもなく、まさか生保の経営者とは」

 財界事情に詳しいベテランのアナリストは同じ金融界でも「生保出身」ということの意外性を強調する。

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カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
安西巧(あんざいたくみ) ジャーナリスト 1959年福岡県北九州市生まれ。1983年早稲田大学政治経済学部政治学科卒、日本経済新聞社入社。主に企業取材の第一線で記者活動。広島支局長、編集委員などを歴任し、2024年フリーに。フォーサイトでは「杜耕次」のペンネームでも執筆。著書に『経団連 落日の財界総本山』『広島はすごい』『マツダとカープ 松田ファミリーの100年史』(以上、新潮社)、『さらば国策産業 電力改革450日の迷走』『ソニー&松下 失われたDNA』『西武争奪 資産2兆円をめぐる攻防』『歴史に学ぶ プロ野球16球団拡大構想』(以上、日本経済新聞出版)など。
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