ポスト岸田でも続く中露の「反日」連携、ロシアは「高市、河野」に一抹のノスタルジア

執筆者:名越健郎 2024年9月24日
9月12日に日本列島を一周したロシアのTu142偵察機。23日には別のロシア軍機が礼文島北方で日本領空を侵犯した[防衛省統合幕僚本部より](C)AFP=時事
日ソ戦争の戦勝80周年を来年に控え、プーチン政権には対日歴史戦をテコに愛国主義を強化する動きが目立っている。従来は火事場泥棒の後ろめたさが覗いた大戦末期の千島列島占領についても、軍事作戦の記念博物館を建設することが「東方経済フォーラム」で打ち出された。中国と連携して「反日」を前面に出す東アジア外交が変わる気配は見えないが、それでも新たな首相の名前次第で多少の違いが出るかもしれない。

 ウクライナ侵攻後、欧州で孤立するロシアが、「反日」を前面に出して東アジア外交を強化している。日露関係は双方の制裁合戦で冷戦後どころか、戦後最悪の段階に陥っているが、ロシアは新たに、ウクライナ支援を続ける日本に対し、「歴史戦」を挑み、軍事的威圧を強めている。中国も日本無視の外交を展開しており、中露が反日で連携する構図だ。
 ロシアの反日外交は、自民党総裁選をにらんだ挑発の要素もある。日本の新政権は対中露外交で難しい対応を強いられよう。

プーチン氏が来年北方領土視察へ

 ウラジーミル・プーチン大統領は9月5日、ウラジオストクで行われた「東方経済フォーラム」の演説で、第二次世界大戦末期の旧ソ連軍による千島列島占領作戦をテーマにした博物館を極東に建設する方針を示した。プーチン氏は「第二次大戦の最後の戦いの記憶を風化させないことが必要だ」と述べ、日本軍と戦った兵士を称える展示にするよう指示した。

 旧ソ連・ロシアは従来、「火事場泥棒」とも称される千島占領作戦に後ろめたさがあったが、博物館建設は北方領土占領を正当化する開き直りといえよう。

 筆者らが最近オンラインで会見したロシアの日本専門家、ドミトリー・ストレリツォフ・モスクワ国際関係大学教授は、「愛国主義全盛の中で、プーチン政権は大戦末期の対日戦勝利に新たな光を当て、日ソ戦争を再評価し始めた。博物館が極東のどこにできるか不明だが、来年の戦勝80周年に合わせて建設される可能性がある」と指摘した。

 千島占領作戦の称賛は、北方領土問題での強硬姿勢につながる。プーチン氏は今年1月、ハバロフスクを訪れた際、北方領土について、「非常に興味深い所と聞いている。残念ながら、まだ行ったことはないが必ず行くつもりだ」と述べた。来年の戦勝80周年に合わせて自ら島を視察することで、領土問題に終止符を打とうとするかもしれない。

 セルゲイ・ラブロフ外相も昨年12月、「日本を含むどの国とも、領土をめぐる論争はもはや存在しない」と述べており、北方領土問題を完全に封印したいようだ。

対日歴史戦を強化

 プーチン氏は東方経済フォーラム出席に先立ってモンゴルを訪れ、ソ連・モンゴル軍と旧日本軍が1939年に武力衝突したノモンハン事件の85周年記念式典に出席。ここでも反日外交を展開し、ソ連は1万人以上の犠牲者を出してモンゴルの主権を守ったと述べ、中立国・モンゴルを取り込む構えを見せた。

 ロシアの情報機関、連邦保安庁(FSB)はノモンハン事件85周年に合わせて、日本の関東軍731部隊がソ連軍に対して、土地を汚染させるため細菌兵器を使用したとする証拠文書を公開した。ロシアは近年、日ソ戦争などに関して、日本の戦争犯罪を強調する真偽不明の文書をしばしば公表する。

 ウクライナのセルギー・コルスンスキー駐日大使が9月3日、靖国神社を参拝すると、ロシア外務省は中国と組んでこれを非難し、「ネオナチのウクライナは日独と同じ悲劇的運命をたどる」と警告し、歴史宣伝戦に利用した。

 ロシアはウクライナ侵攻後、中国と組んで対日歴史戦を強化してきた。昨年は9月3日を「軍国主義日本に対する勝利と第二次世界大戦終結の日」に制定した。プーチン氏は今年5月に訪中し、習近平国家主席と会談した際、来年の対日戦勝80周年をともに盛大に祝うことを確認した。来年9月3日の対日戦勝記念日にプーチン氏が訪中し、共同で対日戦勝を祝賀する可能性がある。

 ロシア筋によれば、「核心的利益の相互尊重」で一致する中露両国は今後、北方領土問題と尖閣問題で互いの主張を支持し合う可能性がある。これが実現すれば、日本外交には悪夢の展開となる。中国外務省報道官は21年7月、北方領土問題で、「第二次大戦の結果は尊重すべきだ」とロシア側におもねる発言をしていた。

対日軍事圧力でも中国と連携

 ロシアは日本への軍事圧力を強めている。9月12日、ロシアのTu142偵察機が日本列島を一周し、自衛隊機が複数回緊急発進した。ロシア偵察機の日本列島一周飛行は5年ぶり。9月23日には北海道・礼文島北方でIL38哨戒機が日本の領空を侵犯した。中国軍の偵察機も8月26日、長崎県沖で日本領空を初めて侵犯しており、中露連携による挑発飛行だった可能性がある。

カテゴリ: 政治 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
名越健郎(なごしけんろう) 拓殖大学海外事情研究所客員教授。1953年岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒業。時事通信社に入社、外信部、バンコク支局、モスクワ支局、ワシントン支局、外信部長、編集局次長、仙台支社長を歴任。2011年、同社退社。拓殖大学海外事情研究所客員教授。国際教養大学特任教授、拓殖大学特任教授を経て、2024年から現職。著書に、『秘密資金の戦後政党史』(新潮選書)、『ジョークで読む世界ウラ事情』(日経プレミアシリーズ)、『独裁者プーチン』(文春新書)など。
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