「大きくて、美しい、ひとつの法案」の「ひとつ」が示唆するトランプの焦り

トランプ政権も発足後6カ月目に入り、政局の焦点は主要政策を盛り込んだ大型法案の成否に移りつつある。
ドナルド・トランプ大統領がこの法案を「大きくて、美しい、ひとつの法案(One Big Beautiful Bill Act)」と呼んでいることは周知のとおりであるが、ネーミングのポイントが「ひとつの」という点にあることはあまり知られていない。
昨年の大統領選挙で共和党は、ホワイトハウスに加え、連邦議会上下両院の多数を制し、いわゆる「トリプル・レッド」を達成したことは記憶に新しい。しかし、この勝利は政治を思い通りに動かすことを可能にするほど決定的なものではない。特に、上院において民主党の議事妨害(フィリバスター)を阻止するに足る議席を確保できなかったことから、重要法案の成立を確保するためには「財政調整措置(リコンシリエーション)」と呼ばれる手続に依存せざるを得ない状況にある。そのこと自体は、近年の政権では珍しいことではなく、バイデン政権でもインフレ抑制法などの看板法案はすべてこの手続きを経て達成している。とはいえ、過半数での採決が可能となる「財政調整措置」の手続きを使うことが許されるのは、一会計年度で数回に限られており、トランプ政権にとってもこの手続きをどのようなタイミングで、いかなる内容の法案について用いるかは、政権運営上の重要課題だ。
このため昨年の選挙後、共和党の議会指導部の間で財政調整措置の活用方針について議論が進められてきたが、この過程で下院と上院の間で思惑の違いが顕在化する。下院側においては、トランプ政権の主要公約である減税、移民対策、エネルギーの三本柱をひとつの大型法案に盛り込み、一括処理することを志向したのに対し、上院側は移民とエネルギーに関する法案を先行処理して、減税については後回しにすることを主張したからだ。
なぜこうした立場の違いが生まれたのか?

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