From Across the Potomac
From Across the Potomac (4)

(あまりにも早い)中間選挙展望

執筆者:冨田浩司 2025年8月13日
エリア: 北米
共和党はOBBBAに対する「金持ち優遇反発」との反発を織り込み成立を急いだ[法案可決後、記者団の取材に応じる共和党の上院幹部議員=2025年7月1日、アメリカ・ワシントンDC](C)EPA=時事
トランプ政権が打ち出す政策は「大きくて、美しい、ひとつの法案(OBBBA)」成立で区切りが付き、アメリカ政治には中間選挙を視野に入れた布石の打ち合いが始まっている。中間選挙は政権与党に不利が通例だが、現時点ではむしろ共和党優勢とする分析もある。テキサス州の選挙区割り変更問題など、来年秋に向けて注目すべき焦点を挙げる。

「大きくて、美しい、ひとつの法案(OBBBA)」が成立した後、米国の政局の焦点は来年秋の中間選挙に移りつつある。先日、本コラムの論考1でも指摘したとおり、OBBBAは公約実現のために必要な財政的措置を一括して実現することを目指したものであり、中間選挙までに打ち出すべき政策イニシアティブはこの法案をもってほぼ出し切ったと見て良い。

 とは言え、政治において一寸先が闇であることは、米国も日本と変わりはない。今後1年余りの間に政局を左右する様々な出来事が生起するはずだ。そうした意味で選挙の結果を占うにはあまりにも時期尚早であるが、中間選挙をめぐる思惑が今後の政治の流れを方向付けるとすれば、選挙の見通しについて考察を深めていくことが不可欠である。本稿では、過去のトレンドや政権と各政党を取り巻く状況を手掛かりにして、選挙に向けた大きな方向性について考えてみたい。

「政権与党に不利」が当てはまらない

 まず、中間選挙の結果、特に、下院選挙の結果は政権与党にとって不利であることはこれまでの経験則からも明らかである。有権者にとって中間選挙は、政権交代の憂いなく、政治の現状への不満を示す機会である。実際、第二次大戦後行われた20回の中間選挙において、政権与党が議席を増やした例は2回に過ぎない。しかも、これらの選挙は、いずれも特異な政治環境の下で行われたものだ。

 すなわち、1回目は、クリントン政権2期目の1998年の選挙で、この選挙では、大統領への弾劾審理の開始に対して危機感を深めた民主党が強い結束を示したことが議席増につながったとされている。2回目は、ブッシュ(ジュニア)政権1期目の2002年の選挙で、前年9月11日の同時多発的テロ事件後のナショナリズムの高まりが政権への大きな支持を生んだ。

 こうした過去のトレンドを考えると、トランプ政権にとって来年の選挙には相当の向かい風が吹いてもおかしくない。実際、政権支持率は、過去の政権同様に右肩下がりの傾向を示しており、「蜜月期」も大方が終ったと見て良い。しかし、選挙区ごとの情勢分析を積み上げていくと、現時点では下院選挙は相当の接戦となる見通しであり、むしろ共和党を優勢とする分析もある。

 例えば、米国の有力な選挙分析サイト、「クック・ポリティカル・レポート(CPR)」によると、全435議席のうち、現時点で共和党が有利とされる選挙区(「盤石(solid)」、「勝勢(likely)」、「優勢(lean)」の合計)が211であるのに対して、民主党のそれは206に留まり、18の接戦区(toss-ups)においても共和党が押し気味とされている2(6月30日更新分)。

 さらに、上院については、民主党が多数を回復するには、4議席の純増が必要となるが、CPRの分析によれば、改選35議席のうち、接戦州はジョージア、ミシガン、ノース・カロライナの3州に限られ、今のところ共和党の多数維持は揺るがない見通しである3(8月7日更新分)。

民主党は支持率で僅差リードも「好感度」が大きく下回る

 上記の分析の通り、経験則に反し、政権与党である共和党の善戦が予想されるとすれば、取りも直さず野党民主党の低迷を意味する。このことはいくつかの数字からも確認される。

 現時点における政党支持率を見ると、

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
冨田浩司(とみたこうじ) 元駐米大使 1957年、兵庫県生まれ。東京大学法学部卒。1981年に外務省に入省し、北米局長、在イスラエル日本大使、在韓国日本大使、在米国日本大使などを歴任。2023年12月、外務省を退官。著書に『危機の指導者 チャーチル』『マーガレット・サッチャー 政治を変えた「鉄の女」』(ともに新潮選書)がある。
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