ひところワゴン車のCMとして「携帯空間」というコピーがブラウン管から流れていた。自動車の内部は普通、窮屈なものである。だが「この車は違います。まるで家の中にいるように広々としています。くつろいだスペースが期待できるのです」とメーカーは訴えたかったのだろう。 けれども、こんなことは今さら改まって宣伝するほどのことではない。今時の日本人は常に「ケータイ空間」の中で生活していることを、私は近著『ケータイを持ったサル』(中公新書)で書いたつもりである。 実は今、ファストフード店でこの原稿を書いている。隣に女子高生が二人。一人は靴を脱ぎ、あぐらをかいて椅子に座っている。もう一人は靴の踵を踏みつぶして、貧乏ゆすり。おそらく店を出たあとも、このまま歩くのだろう。このところ急速に広がりつつある、公的空間においてすら、まるで家の中にいる感覚で振る舞う風潮を、私は「家の中主義」と呼ぶことにしている。
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