新・日本人のフロンティア (22)

日本の近代化経験を共有する――開発大学院連携とJICAチェア(上)

執筆者:北岡伸一 2023年7月8日
カテゴリ: 政治 社会 カルチャー
エリア: その他
2019年2月広島で開催された「日本理解プログラム」特別講義後、留学生の質疑に応じる北岡理事長(当時)[写真提供・JICA、以下同]
日本に来る途上国の留学生が、専門分野を学んで帰るだけではもったいない。日本の近代化の歴史を知ってもらうことこそ、意味のある留学生政策ではないか――省庁や大学・研究機関と連携して生まれたのが「開発大学院連携」だった。(日本の近代化経験を共有する――開発大学院連携とJICAチェア(下)は、こちらからお読みいただけます)

 私は2022年3月末でJICA(国際協力機構)の理事長を退任したが、その後も常勤の特別顧問として勤務している。主な仕事は、JICA開発大学院連携とJICAチェア(JICA日本研究講座設立支援事業)の推進である。最近の海外出張はだいたいJICAチェアに関するものなので、この二つの事業について、今回は述べたい。

JICA事業の中でも重要な国内外の研修

 JICAの事業の中で、重要なものの一つは研修である。技術協力、有償資金協力、無償資金協力が3本柱であって、技術協力の代表的なものが研修事業である。研修には、日本以外の国で行う在外研修と、外国から招いて日本で勉強してもらう国内研修の二種類がある。どちらも重要だが、国内研修の方が人気がある。日本に行けるという単純な理由以外に、みな時間どおりに集まる、ゴミが落ちていない、などの事実を実際に見て、感銘を受ける人が多く、効果は大きい。

 国内研修の中には、数週間の短いものから、学位取得を目指し、日本のどこかの大学院で勉強してもらう留学まで、いろいろな種類がある。大学院で学ぶ場合、英語で、修士を目指すことが多い。テーマは農業、都市計画、防災、国際政治、金融論など、様々である。

 研修員というと、若い人が多いと思われるが、中堅や幹部を招くこともある。JICAの元研修員で、その後局長、次官、閣僚になっている人が、世界中にいる。

 研修は、東京で行われることも多いが、地方での研修もかなり多い。海外で、かつて日本へ留学した人に会うと、地方の国立大学に行っていたという人が多い。都会よりも地方の方が親切だったり、先生にも余裕があったり、物価が安かったりする。施設も悪くない。

 私は国際大学の学長をしていたとき(2012〜15年)、途上国の学生を多数受け入れていた。JICAによる留学生(研修員)以外に、外国政府が送ってきた留学生や、IMF(国際通貨基金)といった国際機関が支援している留学生など、多くの種類があった。留学生の大部分は満足していたが、専門のこと以外に、日本について学ぶ機会が乏しいという不満をよく聞いた。

 たしかに、日本に学びに来て、日本について知ることが少ないのではもったいない。

 では何を教えるべきか。私は日本の近代化の歴史を教えるべきだと思った。日本は非西洋から、文化とアイデンティティを失うことなく近代化した最初で最高の例である。その間、戦争をはじめとする多くの失敗もあったが、全体として日本ほど速やかに近代化に成功して、豊かで、平和で、自由な国を作った例はない。日本以外に、韓国や台湾も成功の例に数えてよいが、これらはかなりの程度、日本モデルによる成功である。……

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執筆者プロフィール
北岡伸一(きたおかしんいち) 東京大学名誉教授。1948年、奈良県生まれ。東京大学法学部、同大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。立教大学教授、東京大学教授、国連代表部次席代表、国際大学学長等を経て、2015年より国際協力機構(JICA)理事長、2022年4月よりJICA特別顧問。2011年紫綬褒章。著書に『清沢洌―日米関係への洞察』(サントリー学芸賞受賞)、『日米関係のリアリズム』(読売論壇賞受賞)、『自民党―政権党の38年』(吉野作造賞受賞)、『独立自尊―福沢諭吉の挑戦』、『国連の政治力学―日本はどこにいるのか』、『外交的思考』、『世界地図を読み直す』など。
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