大地震頻発で露呈する「原発回帰」の虚ろな実態(下)

執筆者:杜耕次 2024年5月1日
エリア: アジア
令和6年能登半島地震では、北陸電力志賀原発の事故時に30キロ圏外への避難ルートとなる国道・県道11路線のうち7路線が寸断され、5〜30キロ圏にある8地区が孤立した[北陸電力志賀原発=2024年1月2日、石川県](C)時事
例えば、柏崎刈羽原発の段階的再稼働を前提にした東京電力の再建計画は「重大事故を引き起こした会社にハイリスクの事業を継続させる」ことに他ならない。電力会社の不祥事や技術レベルの劣化が次々と明るみに出ているにもかかわらず、原発再稼働はその安全性や実現可能性が宙に浮いた状態で、政府・与党の「願望」に押され危険な行進を続けている。

 国のエネルギー政策は矛盾と波乱に翻弄されるのが常だ。考慮すべきファクターは経済、社会、国際情勢、科学(物理、原子力さらに気象・地質など地学全般を含む)と多岐に亘り、それぞれの因子は時事刻々と変化する。かつて一世を風靡した複雑系(Complexity)思考の最たる領域ともいえるが、だからこそ、それを司る政治・行政の「質」が重要であり、優劣がそのまま政策の成果として反映される。日本の場合、憂うべき状況が続いていることは周知の通りだ。

 エネルギー行政の所管官庁である経産省は概ね3年ごとに「エネルギー基本計画」を見直してきた。現行の第6次計画は2021年10月に決定。2030年度を目標にした電源構成を火力41%、再生可能エネルギー36〜38%、原子力20〜22%と定めた。ところが、足元(2022年度実績)では火力72.8%、再生エネ21.7%、原子力5.5%と目標との乖離が甚だしい。とりわけ、原子力は国民の間に福島第1原発の大惨事の印象が根強く残っているうえに、電力会社の不祥事や技術レベルの劣化がネックとなり、政府・与党にとって宿願の原発再稼働が一向に進まない。

「役所主導の作文」の荒唐無稽が露呈して行く再建計画

 岸田政権の首席首相秘書官である元経産事務次官の嶋田隆(64)は1982年に東大工学部計数工学科を卒業し、通産省(現経産省)に入省した。最初の配属先は資源エネルギー庁石油部計画課であり、2006〜07年の2度目の資源エネ庁出向では資源・燃料部政策課長を務めた。2011年3月の福島事故発生当時は与謝野馨・経済財政政策担当相(2017年死去)の大臣秘書官だったが、半年後の9月に政府が立ち上げた原子力損害賠償支援機構(原賠機構、現原子力損害賠償・廃炉等支援機構)の理事兼事務局長に抜擢される。

 2012〜15年には東電取締役を兼務し、政府(原賠機構)が1兆円を出資する実質国有化(2012年7月)や、2030年代前半までに株式時価総額を4.5兆円超に増やす(4月30日現在約1.6兆円)という東電の「新・総合特別事業計画」(2014年1月認定)の策定作業などを差配した。今から振り返れば、福島事故で混乱を極めた東電に乗り込み“火中の栗を拾う”境遇だったことは割り引くとしても、柏崎刈羽の段階的再稼働を前提にした再建計画は「重大事故を引き起こした会社にハイリスクの事業を継続させる」ことに他ならない。利益目標や株式時価総額でも荒唐無稽な数字が散見され、計画は「役所主導の作文」(業界関係者)などと批判されるのも無理はないように映った。

 だが、霞が関の論理は異なる。……

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