オペレーションF[フォース] (65)

連載小説 オペレーションF[フォース] 第65回

執筆者:真山仁 2024年5月18日
タグ: 日本
エリア: その他
(C)時事[写真はイメージです]
国家存続を賭けて、予算半減という不可能なミッションに挑んだ「オペレーションZ」。あの挫折から5年、新たな闘いが今、始まる。防衛予算倍増と財政再建――不可避かつ矛盾する2つが両立する道はあるのか? 目前の危機に立ち向かう者たちを描くリアルタイム社会派小説!

【前回まで】財務省の周防と土岐は、都倉防衛大臣のタウンミーティングに出向いた。直後に起きた北朝鮮ミサイルの迎撃成功――。周防はその現場に近い新潟での会合に赴く。

 

Episode6 一世一代

 

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 周防と別れた土岐は、上野に向かった。約束の時間が迫っている。

 タウンミーティングは、想像以上の盛り上がりだった。いわゆる活動家的な者や、“意識高い系”の人しか集まらないのだろうと思っていたが、乳児連れの女性や小学生なども参加しており、良い意味で裏切られた。

 それでも、あの盛り上がりが、防衛費確保のために増税を積極的に認めようというムーブメントにつながるとは思えなかった。

 政治や社会問題について議論する際には、「いかに自分事として捉えるか」という点が重要だが、「自分事」という言葉の曖昧さが土岐には気になる。

 シンプルに考えれば、「自分事」とは、自分の人生や生活に直結しているという意味だろう。その問題に無関心でいれば、そのツケは、必ず自分自身に跳ね返ってくる。だから、問題の存在に気付いたら、しっかりと対策を考え、時に行動しなければならない――はずだ。

 しかし、「自分事」として危機を捉えることはできても、それを回避するために行動する人は少ない。

 大抵は、「こういう問題に詳しい人たちが行動して解決するべきだ」と他人任せにし、政治家や官僚に対しては、「ロクな仕事をしない」と怒りをぶつけることで、自分の役目を果たした気になり、それ以上の関心を失ってしまう。

 残念ながら、タウンミーティングでも、そういう雰囲気を感じた。

 相手が大臣であっても、活発に意見は言う。だが、国の安全保障について語りながら、自分たちの負担にまで言及した人はいなかった。

 結局は、「一億総コメンテーター」状態に陥っているに過ぎない。

 つまり、生活に直結したリアル感がない限り、政治や社会問題を本当の意味で「自分事」に捉えるのは、難しいということなのだろう。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
真山仁(まやまじん) 1962(昭和37)年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004(平成16)年に企業買収の壮絶な舞台裏を描いた『ハゲタカ』で衝撃的なデビューを飾る。同作をはじめとした「ハゲタカ」シリーズはテレビドラマとしてたびたび映像化され、大きな話題を呼んだ。他の作品に『プライド』『黙示』『オペレーションZ』『それでも、陽は昇る』『プリンス』『タイムズ 「未来の分岐点」をどう生きるか』『レインメーカー』『墜落』『タングル 』など多数。
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