
【前回まで】財務省の周防と土岐は、都倉防衛大臣のタウンミーティングに出向いた。直後に起きた北朝鮮ミサイルの迎撃成功――。周防はその現場に近い新潟での会合に赴く。
Episode6 一世一代
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周防と別れた土岐は、上野に向かった。約束の時間が迫っている。
タウンミーティングは、想像以上の盛り上がりだった。いわゆる活動家的な者や、“意識高い系”の人しか集まらないのだろうと思っていたが、乳児連れの女性や小学生なども参加しており、良い意味で裏切られた。
それでも、あの盛り上がりが、防衛費確保のために増税を積極的に認めようというムーブメントにつながるとは思えなかった。
政治や社会問題について議論する際には、「いかに自分事として捉えるか」という点が重要だが、「自分事」という言葉の曖昧さが土岐には気になる。
シンプルに考えれば、「自分事」とは、自分の人生や生活に直結しているという意味だろう。その問題に無関心でいれば、そのツケは、必ず自分自身に跳ね返ってくる。だから、問題の存在に気付いたら、しっかりと対策を考え、時に行動しなければならない――はずだ。
しかし、「自分事」として危機を捉えることはできても、それを回避するために行動する人は少ない。
大抵は、「こういう問題に詳しい人たちが行動して解決するべきだ」と他人任せにし、政治家や官僚に対しては、「ロクな仕事をしない」と怒りをぶつけることで、自分の役目を果たした気になり、それ以上の関心を失ってしまう。
残念ながら、タウンミーティングでも、そういう雰囲気を感じた。
相手が大臣であっても、活発に意見は言う。だが、国の安全保障について語りながら、自分たちの負担にまで言及した人はいなかった。
結局は、「一億総コメンテーター」状態に陥っているに過ぎない。
つまり、生活に直結したリアル感がない限り、政治や社会問題を本当の意味で「自分事」に捉えるのは、難しいということなのだろう。

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