アフリカで広がる「ゲーム経済圏」の波に乗れ(下) 日本企業の成功の鍵は「課金設計」と「IP活用」

執筆者:不破直伸 2025年7月11日
エリア: アフリカ
単なる輸出モデルから脱却するカギは、日本IPと現地文化を掛け合わせた共創型ゲームの開発だろう[ケニア・ナイロビで開かれたイベントで日本のアニメキャラクターに成り切るコスプレーヤー=2023年8月26日](C)AFP=時事
アフリカでは依然として通信インフラやスマートフォンのスペック、可処分所得の制約が大きく、高負荷グラフィックや重課金型ゲームの展開は現実的ではない。そのため、日本や韓国で定着した一部の重課金ユーザー層に依存するビジネスモデルよりも、経済発展に応じて課金導線を段階的に拡張する成長連動型の戦略が求められる。日本企業にとっては、アフリカの若者たちの間でもすでに共通言語となったアニメやマンガのIPが強力な武器になる。

開発・収益構造で分類する──世界ゲーム産業の「三極モデル」

 ゲームビジネスにおいては、大きく二つの視点が求められる。

 一つは、開発者・投資家側の立場から「どの開発・収益モデルに軸足を置くか」を問う構造分類(=三極モデル)である。もう一つは、ユーザー文化・経済インフラといった地域要因を前提に、現地に適合する課金導線やゲーム設計を構築する“地域別最適モデル”の視点だ。本章ではまず、開発企業・パブリッシャーの立場から、世界のゲーム業界において支配的な「三極構造」を整理する。

 2025年現在、ゲーム業界では「AAA型」「ハイブリッドカジュアル型」「ハイパーカジュアル型」という三極構造が明確になりつつある。それぞれが開発規模・収益モデル・投資回収スパン・ターゲット市場において異なる戦略をとっており、各社のポジショニングはこの三極のどこに軸足を置くかによって大きく変化している。

◆AAA型:大資本によるフラッグシップ戦略と重課金依存構造

 映画並みの没入感、高精細グラフィック、フルボイス演出、複雑なストーリーラインなど、あらゆる要素を詰め込んだ“フルスケール”のタイトル群。たとえばmiHoYoの『原神(Genshin Impact)』は、開発費1億ドル超・年運営費2億ドルとされ、初年度でグローバル合計10億ドル以上の収益を達成し、近年のモバイルゲームにおけるフラッグシップ事例とされる。

 このモデルでは、収益の大半を支えるのは全体の上位1~2%にあたる重課金ユーザーであり、彼らが全体売上の50%以上を担うとされる。日本では『ドラゴンボールZ ドッカンバトル(ドッカンバトル)』や『ウマ娘 プリティーダービー』、『ロマンシング サガ リ・ユニバース(ロマサガRS)』などがこの典型であり、いずれも強力なIPと、期間限定イベントやレアキャラ登場といった限定性を軸に、熱狂的なユーザー層から高単価課金を引き出す戦略を取っている。

 補足すると、これらのタイトルは、コンソールゲームで言うグローバルなAAAタイトルと比べると対象市場や技術仕様に違いはあるが、日本におけるモバイルゲーム領域においては「AAA型」に準ずる高コスト・高リスク・重課金型F2Pモデルとして位置づけられる。実際に、開発費・広告費が数十億円規模にのぼり、初動での成功が収益性を大きく左右する構造を持っている。

 なかでも『ドッカンバトル』は、日本市場での成功に加え、北米や欧州をはじめとする海外市場でも広く支持を集めており、グローバルで高い存在感を示しているタイトルの一つである。ドラゴンボールというIPの国際的な認知度と人気、分かりやすいバトルシステム、頻繁なグローバルイベントの開催などが、欧米・アジア市場での持続的な収益確保に貢献している。これは、IPの強さとゲーム設計のローカライズが両立した好例であり、国内市場依存にとどまる他のF2Pタイトルと一線を画している。

 一方で、『ロマサガRS』は、日本市場では成功を収めたものの、グローバル展開では成果を出せなかった。『ドッカンバトル』は世界的に認知されたIPとシンプルなバトル設計が海外展開を後押しした一方で、国内特化のIPを用いた『ロマサガRS』は、UX(ユーザー体験)の複雑さやリリースの遅延も重なり、海外では成功しなかった。IPを活用したビジネスモデルでも、IPの国際訴求力とUXの適合性が成否を左右したと言える。

 なお近年では、『PUBG MOBILE』やコナミによって開発された『eFootball』のように、ハイエンドゲームを中価格帯スマホ向けに最適化することで、アフリカ市場でもモバイルeスポーツやリアル系スポーツゲームが一定の支持を集めるようになっている(なお厳密には、『PUBG MOBILE』や『eFootball』は日本的なIP起点のF2P重課金型とは異なり、リアルスポーツ/eスポーツを軸とした実力競技型ハイエンドタイトルに分類される。しかしアフリカなど新興市場での収益構造は、一定層の熱心な課金ユーザーに支えられており、AAA型に準ずる現地適応モデルとして注目に値する)。

 ただし、このモデルは極めて高リスクでもある。『サクラ革命』(セガ×ディライトワークス)は推定開発費約30億円に対し初月売上が7000万円、『トライブナイン』(アカツキ×Tookyo Games)は推定50億円以上を投じながらリリース後3カ月でサービス終了。こうした事例は、AAA型タイトルにおけるブランド構築とマネタイズの難しさを浮き彫りにしている。

◆ハイブリッドカジュアル型:収益性と獲得効率のバランス型

 2023年以降、最も急速に拡大しているモデルがこのハイブリッド型である。直感的な操作性と短時間プレイが可能なハイパーカジュアルの特徴に、育成要素・PvP・スキン販売・ガチャ要素などミッドコア的な要素を加えたもので、『Candy Crush Saga』『Brawl Stars』『Free Fire』といった広く認知されたタイトルが該当する。

 ハイブリッドカジュアル型ゲームは、特定の重課金ユーザーに依存せず、幅広いユーザーからの中程度の支出を積み重ねることで、LTV(Life Time Value)を高めながら安定した収益を確保する設計が特徴である。課金ユーザーが中〜小口で広範に分布する「分布型モデル」が支配的であり、ミドル課金層による安定的な収益構造が構築されている。スキンやバトルパス、期間限定コンテンツといった外観や利便性の向上を通じて、ユーザー満足度と継続率を高める構造となっており、プレイ体験を損なわずに自然な形での課金を促している。特に欧米市場では、課金によってゲームバランスが大きく崩れる「Pay-to-Win」型への反発が根強く、こうしたユーザーのロイヤルティに訴える中間課金設計が支持されやすい。

 運営側はKPI(継続率、課金率、ARPUなど)をベースに、A/Bテスト(複数の施策を比較し効果を測定する手法)やユーザー行動分析に基づく価格調整、報酬設計、UI改善などのプロセスを高速で回しながら、運営フェーズで利益率を高めていく。これにより、初期プロモーションに依存せず、タイトル寿命を5~10年規模へと延ばす長寿型ゲームが誕生している。

◆ハイパーカジュアル型:低コスト高速回転と広告依存モデル

 Voodoo(仏)やCrazyLabs(イスラエル)などがリードするハイパーカジュアル型は、極限までシンプルなUI・ルールを追求し、数週間の開発期間・数百万円レベルの開発費で次々とリリースされる「量産型タイトル」が主軸となる。

 収益構造は、90~95%を広告収入に依存しており、ほぼ全てのユーザーが無課金であることを前提とした設計となっている。特に動画リワード広告やインタースティシャル広告が中心で、1ユーザーあたりのeCPM(広告単価)と接触回数の最大化がKPIとなる。ゲームプレイの1セッションあたりの長さは非常に短く、一般的には30秒~2分程度が主流である。TikTok広告やバイラルなプロモーション(ユーザーによる自発的拡散を狙った戦略)と相性が良い。

 ユーザーの継続率(リテンション)は平均して1週間程度と短命であるものの、開発サイクルが非常に短いため、年間で数十本の新作を投入し、個々のタイトル収益ではなくポートフォリオ全体としての収益最大化を狙う戦略が主流である。特に、アフリカや南アジアなどの新興国市場では、通信インフラの不安定さや課金手段の限界から、こうした「軽量・無料・広告収益型」のモデルが普及しやすく、多くのユーザーに低ハードルでリーチできる利点がある。

地域特性が決める“課金設計”──東アジア・欧米・新興国の違い

 ゲームの収益モデルは、単なるF2P(Free-to-Play)の普及にとどまらず、地域ごとの文化的背景、インフラ環境、ユーザー行動の差異に応じて多様化している。

 東アジア、とりわけ日本や韓国においては、上位1〜2%の“廃課金層”が売上の大半を支える「パレート型構造」が支配的だ。強力なIPとガチャ機能を軸とした「重課金依存型モデル」が定着しており、限定性や優越感を刺激する設計が収益の中心をなしている。

 一方、欧米市場では「Pay-to-Win」に対する拒否感が強く、公平性を重視した競技環境が求められる。課金は主にスキンや利便性向上、演出強化といった、ゲームバランスに影響を与えない領域に集中しており、ユーザーが中小口で広く分布する「分散型モデル」が主流となっている。これにより、収益の安定性が担保されている。

 こうした二極化を前提とした場合、グローバル市場、特に新興国への展開において、重課金型モデルをそのまま適用するのは難しい。重課金型は、高い経済力を有し、IPへの強い支持基盤がある先進国でこそ機能するものであり、新興国においてはフィットしにくい。

 新興国を含むグローバル市場で成功するために鍵となるのは、以下の3点である。

フォーサイト最新記事のお知らせを受け取れます。
執筆者プロフィール
不破直伸(ふわなおのぶ) 国際協力機構(JICA)スタートアップ・エコシステム構築専門家。Project NINJA発起人。1982年生まれ。ボストン大学大学院・金融工学専攻。投資銀行やIT系のスタートアップ役員などを経て、ウガンダに移住。JICA本部にて勤務した後、現在はナイジェリア滞在。アフリカ諸国のスタートアップ・エコシステム構築支援に従事。
  • 24時間
  • 1週間
  • f
back to top