アフリカで広がる「ゲーム経済圏」の波に乗れ(上) “モバイルファースト”の経済構造と最重要3カ国の市場特性

執筆者:不破直伸 2025年7月11日
エリア: アフリカ
アフリカのゲーム市場は有望だが、54カ国・40以上の通貨を抱える極めて多様な地域であり、ゲーム関連の規制やビジネス環境も国によって大きく異なる(C)Media Lens King/Shutterstock.com
スマホさえあれば無料で始めることができ、段階的に課金されていくモバイルゲームは、限られた可処分所得しかない若年層が多いアフリカ市場と親和性が高い。スマホの普及は銀行口座を持たない人々をデジタル経済に接続し、アフリカにゲームビジネスの本格的な波が訪れようとしている。特に注目すべきはエジプト・ナイジェリア・南アフリカの3カ国だが、それぞれの市場の特徴に応じて異なるアプローチが必要になる。

 平均年齢19歳、スマートフォンの急速な普及――アフリカは、世界最大級の若年人口とモバイル浸透率を背景に、これから注目されるべき次世代のデジタル娯楽市場である。現時点では可処分所得が限られ、課金収益は限定的だが、モバイルゲームを起点とした市場は急成長しており、将来的な可能性は極めて大きい。今こそ、日本企業が先行投資的に関与する好機でもある。本稿では、拡大する若年層需要と、ゲームを軸にした連携の可能性を探る。

娯楽時間の“パイ”を奪い合う時代へ

 現代のエンタメ業界は、「可処分所得」ではなく「可処分時間」の奪い合いにシフトしている。人々が一日に使える時間は限られており、そこにどのコンテンツが入り込むかが競争の焦点となっている。スマートフォンの普及により、映像・音楽・SNS・ゲームといったコンテンツが1台の端末に集約され、ユーザーのスキマ時間をめぐる争奪戦が激化している。中でもゲームは、能動的な関与と成果の可視化により、他のコンテンツと一線を画す存在として急浮上している。

 ゲームは高い没入性を持ち、ユーザーが自らの操作でキャラクターを成長させたり、競争に勝利したりすることで明確な“成果”を体験できる。このプロセスは心理的報酬を生み、他の受動的なコンテンツよりも長時間にわたるエンゲージメントを可能にする。これにより、ゲームはエンタメ産業の中でも特にユーザーの時間を長く深く引きつける存在となり、時間を消費させる力において他ジャンルを凌駕する分野へと進化している。

 最新統計によると、モバイルゲームの平均プレイ時間は1セッション(※アプリを前面表示してから、操作や通信が一定時間途切れるまでの連続利用単位)で30.8分に達する(アクションゲームは平均45.15分)。これはライブ動画の平均視聴24.4分、短尺動画TikTokの5.96分、SNS フィード閲覧 Instagram の2.74分を大きく上回る。

 こうした時間密度の高さがゲームの経済価値を押し上げ、2024年の世界ゲーム市場規模は1827億ドルに到達した(Newzoo, 2024)――そのうちモバイルが55%を占める。ゲームは“時間を金融商品化する装置”へと進化したと言っても過言ではない。

【2024年:プラットフォーム別市場規模】
出典:Newzoo’s Global Games Market Report 2024 拡大画像表示

モバイルゲームの台頭とF2P構造

 ゲーム市場の中で最も顕著な成長を遂げているのがモバイルゲームである。現在、プラットフォーム別に見るとモバイルゲームが全体の約半数(55%)を占め、コンソールやPCを大きく引き離している。この傾向を支えるのが、F2P(Free-to-Play:基本プレイ無料)モデルの爆発的な普及である(F2Pモデルは、初期費用なしで開始でき、ゲーム内課金や広告によって収益化される)。

 この構造の革新性は、「ゲームを購入する」という従来の所有型の価値観を、「体験に対して段階的に支払う」という参加型・関与型の経済モデルへと転換させた点にある。

 ユーザーは無料でゲームを開始し、ゲーム内でのレベルアップやキャラクターのカスタマイズ、他者との競争において優位に立つために課金を行う。これは単なる金銭支出ではなく、成果の演出や自己表現といった感情価値と密接に結びついており、ユーザーの関与度を高める原動力となっている。

 また、たとえば、アイテム課金、ガチャ要素、リワード広告、サブスクリプション、eスポーツ連携といった多様なマネタイズ手法を柔軟に組み合わせることで、開発者は収益の柱を複線化し、継続的な運営を可能にしている。加えて、SNSとの連携などによりユーザー間の関係性を育み、ゲーム中心のエコシステム形成にも寄与している。

 このようなF2P構造の特性は、特に可処分所得が限定的な新興国や若年層市場において極めて相性が良い。スマートフォン1台あればプレイでき、少額課金または広告視聴によってコンテンツの全体像を楽しめる仕組みは、多くのユーザーにとって心理的・経済的ハードルが低く、アクセス性に優れた次世代の時間消費モデルとして機能している。

「無料で始め、段階的に課金されていく」F2P構造はまさに、可処分所得が限られ、安定収入がない若年層が多いアフリカ市場と高い親和性を持っている。

 このF2Pモデルの普遍化こそが、モバイルゲームを世界中で急成長させる牽引力となっているのである。

アフリカ市場が急拡大する三つの理由

 アフリカのゲーム市場は、依然としてグローバル全体と比べて規模こそ小さいものの、2024年には前年比+12.4%の18億ドルに達し、世界平均の約4倍という急成長を遂げた。中でもモバイルゲームが市場の90%以上を占めており、これはスマートフォンの急速な普及と、物理的インフラの制約を逆手に取った“モバイルファースト”構造を象徴している。

 成長を支える主要因は以下の3点に集約される。

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執筆者プロフィール
不破直伸(ふわなおのぶ) 国際協力機構(JICA)スタートアップ・エコシステム構築専門家。Project NINJA発起人。1982年生まれ。ボストン大学大学院・金融工学専攻。投資銀行やIT系のスタートアップ役員などを経て、ウガンダに移住。JICA本部にて勤務した後、現在はナイジェリア滞在。アフリカ諸国のスタートアップ・エコシステム構築支援に従事。
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