米国・中国間の競争により、インド太平洋への注目が世界的に集まる中、フランスも同地域を重要視している。フランスは他の欧州諸国と異なり、インド洋と太平洋に海外領土を有することから、インド太平洋諸国の一員として、安全保障面でも積極的な関与を続けている。
近年の動向では、フランスは「ミニラテラル」と呼ばれる小規模な多国間協力の強化や、パートナー国への武器輸出に注力している。本稿では、フランスのインド太平洋戦略の特徴を考察するとともに、インド太平洋における日仏協力について展望する。
新たなパートナーに加わるUAE
フランスは欧州諸国の中で最も早く、2018年にインド太平洋戦略を策定した。アフリカ東部からオセアニアまで広がるインド太平洋には、フランスの海外県・地域圏(レユニオンやマヨット)や海外共同体(ニューカレドニアやポリネシア等)が点在し、2022年時点で約168万人の住民が居住している(出所:仏国立統計経済研究所)。これらの海外領土は、世界第2位の広さを誇るフランスの排他的経済水域(EEZ)1100万平方キロメートルのうち、大部分の900万平方キロメートルを占めている。
フランスにとってインド太平洋に位置する海外領土の防衛は、同国の主権や住民の安全を確保するという観点に加え、鉱物資源やエネルギー権益の観点からも重要視されている。特に南太平洋のニューカレドニアには、ニッケルとコバルトが埋蔵されており、これら重要鉱物を一定程度フランス領内で産出できるのは重要な意味を持つ。またエネルギー面では、フランスはインド洋からの航路を通じて中東諸国から石油や天然ガスを輸入するほか、インド太平洋諸国でエネルギー権益を保持している。仏企業「トタルエナジーズ」が、湾岸諸国からオーストラリアに至るインド太平洋の広域で資源開発事業を展開している。このため、同社がインド太平洋で事業を継続的に運営したり、同社の資源開発事業から石油・天然ガスを安定的に海上輸送したりするには、フランス政府による支援が不可欠である。同社が関与するエネルギー事業が存在する限り、フランスはインド太平洋に引き続きコミットメントしていくと考えられる。
フランスはインド太平洋での地域秩序の維持を目的に、インド洋でインドと、太平洋ではオーストラリアと連携している。また、インドやオーストラリアとの二国間関係を、ミニラテラル協力の枠組みに発展させた。2020年9月、仏・印・豪州の3カ国は初の外務次官級協議を開催し、インド太平洋における経済的・地政学的課題での協力について議論した。2021年5月には、外相級協議が開催された。
ミニラテラル協力に関連して、フランスはインド太平洋戦略の新たなパートナー国として、アラブ首長国連邦(UAE)にも期待を寄せている。フランス・UAE関係は1974年に外交関係を樹立して以降、一貫して良好である。2009年には、UAEのアブダビ首長国に仏軍基地が開設された。同基地は、フランスにとって海外5カ所目の常設基地で、旧植民地(ガボン、コートジボワール、ジブチ、セネガル)以外では初となる。UAE駐留仏軍の司令官は、2010年より仏軍インド洋海域司令官(ALINDIEN)も兼務している。このため、UAE駐留仏軍は、西はスエズ運河の南方側から、東はインドネシアやオーストラリアの西端までの海域でフランスの防衛政策を遂行する役割を担う。この点から、フランスはUAEに軍事的プレゼンスを持つことで、ペルシャ湾周辺のトタルエナジーズのエネルギー権益を守るだけでなく、インド太平洋にあるフランス海外領土の防衛に迅速に駆けつける体制を構築することが可能となる。
フランスとUAEの蜜月関係は、インドが加わった形でのミニラテラル協力に発展した。2022年9月に仏・印・UAEの外相級協議が行われ、2023年2月には3国協力イニシアティブに関する共同声明が発表された。同合意に基づき、3カ国は同年6月にオマーン湾で初の合同海上演習を、2024年1月にはアラビア海で初の合同航空演習を実施した。仏・印・豪州の協力が太平洋エリアにより重点が置かれている一方、仏・印・UAEの連携はアジア、アフリカ、ヨーロッパの3つの大陸の交差点にあるインド洋を重視している。
独自の防衛政策に基づく部隊展開と空海戦力投射態勢
フランスのインド太平洋戦略の特徴は、安全保障面での積極的な関与である。
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