Weekly北朝鮮『労働新聞』
Weekly北朝鮮『労働新聞』 (132)

6年8カ月ぶりの訪中に娘を同行させた金正恩(2025年8月31日~9月6日)

執筆者:礒﨑敦仁 2025年9月8日
エリア: アジア
朝鮮中央通信が配信した写真では、習近平・プーチン・金正恩の三者が大勢の外国首脳を率いるような構図になっていた[2025年9月3日、中国・北京](C)AFP=時事
戦勝80周年で訪中した金正恩国務委員長は特別扱いで歓待された。朝中露の3首脳が一堂に会したのは1959年10月以来と見られる。今回の外遊には崔善姫外相、金成男党国際部長、趙甬元、金徳訓の両党書記らとともに、金正恩の娘も同行しており、内外で後継者であるとの印象が強まった。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】

 金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が「中国人民抗日戦争及び世界反ファシズム戦争勝利」80周年記念行事に参加するため、6年8カ月ぶりに訪中した。

 9月4日付は、北京の天安門広場で開催された記念行事について多くの写真とともに伝えた。習近平国家主席、ウラジーミル・プーチン大統領、金正恩の三者が並び立ったことに注目が集まったが、『労働新聞』に掲載されたスリーショットはそれほど目立たないものであった。

 しかし、6日に朝鮮中央テレビが放送した記録映画では、金正恩と中露首脳の存在感が誇示された。会場の天安門に集結する各国首脳の姿が一人ずつ放映されたのはきわめて異例なことである。北朝鮮の人々は、金正恩と会談を行った人物を除いて外国首脳の顔を自国メディアで目にすることは皆無に近いため、興味深く見守ったのではないか。当然のことながら、李在明(イ・ジェミョン)韓国大統領の顔も知られていない。

 この記録映画では、各国首脳の名と肩書きを字幕入りで紹介したからこそ、その後、彼らが閲兵台「望楼」の階段を上る映像が印象に残るものとなった。習近平の横には常にプーチンと金正恩がおり、その三者が大勢の外国首脳を率いるような構図になっていたからである。軍事パレード後に開催された午餐会場への入場時も三人ばかりが大きく映し出されていた。

 金正恩が「最高領導者」となってから早や13年8カ月だが、2004年10月に即位したカンボジアのノロドム・シハモニ国王の在任期間はもっと長いため、中国が同盟国である北朝鮮の指導者を特別扱いしたことが窺える。金正恩は習近平に対して「誠意を尽くして格別に歓待してくれた」ことに謝意を表し、今回の行事を通じて「世界の平和を守ろうとする中国の確固たる決心を見せ、中国の重要な国際的地位と影響力をはっきり示した」などと持ち上げたのも当然であろう。

 朝中露の3首脳が一堂に会したのは、1959年10月の中華人民共和国建国10周年行事以来と見られる。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治外交。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、『北朝鮮を読み解く』(時事通信社)、共著・編著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)、『北朝鮮を解剖する』(慶應義塾大学出版会)など。
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