「私人」ジャレッド・クシュナーが主導したガザ和平、「第2段階」の危うい現実

執筆者:杉田弘毅 2025年11月12日
エリア: 中東 北米
外国首脳もトランプの義理の息子であるクシュナー氏を軽んじない[エルサレムで会談するクシュナー氏(中央左)とイスラエルのネタニヤフ首相(同右)=2025年11月10日、イスラエル政府提供](C)時事

「おやっ」と軽い驚きを世界中に与えたはずだ。10月9日のガザ和平20項目合意を承認したイスラエルの閣議で、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の左隣にジャレッド・クシュナーが座っていたことだ。右隣にはスティーブ・ウィトコフが座ったが、ウィトコフはドナルド・トランプ大統領が任命した中東担当特使だから、米国作成の20項目合意の説明役として閣議に参加するのは分かる。だが、元大統領上級顧問とはいえ今は私人に過ぎないクシュナーが、なぜここにいるのか。

 トランプの娘婿クシュナーは、その直前エジプト・シャルムエルシェイクの和平交渉に参加し、10月20日にもエルサレムを訪れネタニヤフと会談している。イスラエルがハマス指導者殺害のためにカタールを攻撃した後、ホワイトハウスを訪れたネタニヤフがトランプに指示されカタール首相に謝罪の電話を入れる際にも臨席した。謝罪はクシュナーのアイディアという。この電話の直後にトランプは20項目合意を発表した。

 クシュナーは11月10日にもウィトコフとエルサレムを訪れ、ネタニヤフに和平合意「第1段階」の履行を促し、「第2段階」への移行についても協議したと伝えられる。クシュナーはすべての動きに関与し、その遂行を現場で見守っている。

 

トランプ外交の「ディール」を担う

 今回のガザ和平はトランプ外交に見える二つの特徴が如実に反映されている。クシュナーは、いわばその特徴の体現者としてガザ和平交渉の舞台に登場した。

ガザ和平交渉は、属人的な“ディールの手腕”と米国のビジネス上の利益によって駆動されるというトランプ外交の典型的アプローチのもとで進んできた。その中核にいるのは大統領の娘婿、クシュナーという「私人」だ。クシュナーの展開するプライベート・エクイティ投資やAIコンサルティングなどのビジネスは、実際、湾岸マネーをイスラエルに誘導することで大きな利益を上げられる。だが、さらに複雑な交渉が必要になる「第2段階」にもその手法が通用するかは見通せない。
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カテゴリ: 経済・ビジネス 政治
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執筆者プロフィール
杉田弘毅(すぎたひろき) ジャーナリスト・明治大学特任教授。1957年生まれ。一橋大学を卒業後、共同通信社でテヘラン支局長、ワシントン特派員、ワシントン支局長、論説委員長などを経て現在客員論説委員。多彩な言論活動で国際報道の質を高めたとして、2021年度日本記者クラブ賞受賞。BS朝日「日曜スクープ」アンカー兼務。安倍ジャーナリスト・フェローシップ選考委員、国際新聞編集者協会理事などを歴任。著書に『検証 非核の選択』(岩波書店)、『アメリカはなぜ変われるのか』(ちくま新書)、『入門 トランプ政権』(共同通信社)、『「ポスト・グローバル時代」の地政学』(新潮選書)、『アメリカの制裁外交』(岩波新書)『国際報道を問いなおす』(ちくま新書)など。
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