EUによる対ウクライナ融資合意を読むーー「EUらしさ」の解剖

執筆者:鶴岡路人 2026年1月8日
タグ: EU ウクライナ
エリア: ヨーロッパ
EUはウクライナ和平をめぐる議論のアクターとして踏みとどまった[欧州理事会終了後に握手を交わすデンマークのメッテ・フレデリクセン首相(左)、アントニオ・コスタ議長(中央)、ウルズラ・フォンデアライエン欧州委員会委員長(右)=2025年12月19日、ベルギー・ブリュッセル](C)EPA=時事
EUは2025年12月の首脳会合で、ウクライナに対する900億ユーロの無利子融資を決定した。交渉の過程では、当初案がベルギーの反対で頓挫し、最終合意にはハンガリー、スロヴァキア、チェコが加わらなかった。この経緯をもってEUの「分裂」を強調する声も少なくない。しかし、制度と意思決定の構造に目を向ければ、「EUらしさ」ともいえる粘り腰が浮かびあがる。ただし、その先に深刻な課題が潜むのもEUだ。

 EU(欧州連合)は、2025年12月18日にブリュッセルで開催した欧州理事会(EU首脳会合)で、2026、27年の2年間に合計で900億ユーロ(約16兆円)の無利子融資をウクライナに対して実施する合意に達した。当初目指されたロシア中央銀行の凍結資産を活用する案は頓挫し、かわりにEU予算を担保とする案が承認されたのである。

 凍結資産の活用の是非やその方法に注目が集まったために、EUは分裂を露呈することになった。一部報道でも、融資が合意されたことよりも、凍結資産活用案が断念されたことの方が強調されていた。しかし、ウクライナ支援の継続の観点で今回の融資合意は極めて重要だし、合意された枠組みは、多くの点で当初の凍結資産活用案と共通していることも注目に値する。

 そして、今回の融資の仕組みとそこに至る過程には、良くも悪くも多くの「EUらしさ」が存在する。EUの決定の中身とその意味を解剖することにしたい。

上昇した緊急性

 まずは外形的な部分である。12月18日の首脳会合は、はかり方にもよるが15時間から17時間続き、終了したのは、日付が変わった19日の午前3時頃で、アントニオ・コスタ欧州理事会議長による記者会見が始まったのは同3時半をまわっていた。日本の総理が参加する首脳会合では考えにくいかもしれないが、EUにとって、これは必ずしも珍しいことではない。予算交渉など、どうしてもその時に合意しなければならない案件があれば、完全な徹夜もおこなわれるし、翌日やその次の日まで延長されることもある。何とも「EUらしい」やり方だ。

 もっとも今回の場合、ウクライナに対する融資を12月中に決めなければならない法的や制度的な制約は特になかった。しかし、急ぐ必要があるとの認識が急激に強まっていた。第1に、ウクライナ政府の資金需要を考えると2026年春までの融資実施が必要であり、各種手続きに要する時間を考慮すれば、残り時間が少なくなっていた。戦争が続くにしても、何らかの停戦・和平が実現するにしても、政府を存続させるためには財政的裏付けが不可欠である。ウクライナは2026、27年の2年間で1350億ユーロの財政支援が必要と試算されていた。

 第2に、米国の動きがあった。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
鶴岡路人(つるおかみちと) 慶應義塾大学総合政策学部教授、戦略構想センター・副センター長 1975年東京生まれ。専門は現代欧州政治、国際安全保障など。慶應義塾大学法学部卒業後、同大学院法学研究科、米ジョージタウン大学を経て、英ロンドン大学キングス・カレッジで博士号取得(PhD in War Studies)。在ベルギー日本大使館専門調査員(NATO担当)、米ジャーマン・マーシャル基金(GMF)研究員、防衛省防衛研究所主任研究官、防衛省防衛政策局国際政策課部員、英王立防衛・安全保障研究所(RUSI)訪問研究員などを歴任。著書に『EU離脱――イギリスとヨーロッパの地殻変動』(ちくま新書、2020年)、『欧州戦争としてのウクライナ侵攻』(新潮選書、2023年)、『模索するNATO 米欧同盟の実像 』(千倉書房、2024年)、『はじめての戦争と平和』(ちくまプリマ―新書、2024年)など。
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