インテリジェンス・ナウ
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ハッカニ・グループとの和戦両面作戦は胸突き八丁に

執筆者:春名幹男 2011年10月14日
エリア: 北米 アジア

 来年の米大統領選を前に、アフガニスタンでは「2014年までに戦闘任務を終える」という出口戦略を進めるオバマ米政権。開戦からちょうど10年たって、現在10万人規模のアフガン駐留米軍の段階的撤退も始まった。
 しかし、オバマ政権のアフガン戦略には相当の無理がある。そもそも、反政府勢力タリバンのような勢力を相手に、掃討作戦を進めるのと同時に、和平交渉を進めるのは至難の業であるからだ。
 しかも、交渉相手との接触は、パキスタンの情報機関、3軍統合情報総局(ISI)に頼んで設定してもらう、という綱渡りのような状況にあることが明るみに出た。

ISIの対米攻撃関与を直言できない大統領の悩み

アフガニスタンの首都カブールで、襲撃を受けて炎を上げるホテル (C)AFP=時事
アフガニスタンの首都カブールで、襲撃を受けて炎を上げるホテル (C)AFP=時事

 オバマ政権が3万人のアフガン増派を決めてから2年近くたつが、戦況が好転した気配は見られない。逆に、以前は見られなかった、首都カブールが直接攻撃される事態が今年初め以来、続いているのだ。  2月、カブールの銀行が襲われ、40人以上死亡。  5月、カブールとガルデーズを結ぶ道路沿いの建設現場が襲撃され、35人死亡。  6月、ホテル襲撃で12人死亡。  9月、米大使館などに対するロケット弾攻撃で16人以上死亡。  いずれも親タリバンの有力な軍事組織「ハッカニ・グループ」が関与したようだ。9月末の退任を目前に控えた米軍の制服組トップ、マイケル・マレン統合参謀本部議長が議会証言で、6、9月の2事件では背後に同グループの存在があり、同グループはISIの「紛れもない一機関」として行動しているとまで言い切った。対テロ戦争の同盟国パキスタンが対米攻撃を手助けしたというのだ。  大使館攻撃では、事件発生の前後に犯人が携帯電話でISIと連絡を取った証拠がある、とも伝えられている。  だが、オバマ大統領はパキスタンを直接非難せず、パキスタンがハッカニ・グループに「積極的に関与しているのか、活動を消極的に許しているのか」は不明と言葉を濁した。  マレン前議長の怒りと、奥歯に物が挟まったような大統領の言葉が、米国が置かれた難しい状況を象徴している。

接触はまだ予備的段階

 実は、オバマ米政権は昨年10月頃、当時のアフガニスタン・パキスタン担当特別代表の故リチャード・ホルブルック氏の進言を受け入れて、ハッカニ・グループの代表を含めたアフガン関係国・組織との直接の秘密協議を開始した、と伝えられている。戦闘と交渉を同時進行させる戦略の採択である。
 ワシントン・ポスト紙編集局長などを歴任、現在ニューアメリカ財団理事長のスティーブ・コル氏によると、米国側は国務省を中心に関係省庁が参加、米中央情報局(CIA)など情報機関が交渉を背後から支える形で接触が始まった。
 しかし、この協議は端緒から深刻な問題を抱え込むことになった。
 ホルブルック氏が昨年12月、国務省でクリントン長官と協議中、突然心臓大動脈解離で倒れ、死去したのである。彼は73年合意のベトナムとのパリ和平交渉に参加、95年にはボスニア・ヘルツェゴビナ和平合意を達成、国連大使などを歴任した極めて有能な外交官で、大きな期待を集めていた。
 米国きっての外交のエースが相手にするはずだったのは、かつてCIAから数万ドル単位の資金援助を受けていたハッカニ・グループである。
 ハッカニ・グループは、旧ソ連軍のアフガン侵攻で戦ったムジャヒディン(イスラム戦士)のジャラルディン・ハッカニ氏を中心とする武装集団。当時はCIAから支援され、レーガン大統領がハッカニ氏をホワイトハウスに招いたこともあった。1996年のタリバン政権樹立後、タリバンの傘下に入り、米中枢同時テロ後、国際テロ組織アル・カエダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の逃亡を助けたといわれる。現在は息子のシラジュディン氏が司令官を務め、父は顧問。現在の勢力は推定3000人。
 ホルブルック氏を欠いた米国はISIのあっせんで今夏、1回はハッカニ・グループとの接触にこぎ着けたもようだが、まだ予備的な打ち合わせ程度で、中身のある本格交渉には至っていない。

情報は入手したが……

 そんな状況下で、ハッカニ・グループによる首都カブールへの攻撃が相次いだのである。しかも、米大使館攻撃の前に、米欧の情報機関は重大な情報を入手していた。
 同グループの拠点がある部族地域、北ワジリスタン地区ミランシャーで2個のトラック爆弾が組み立てられたとの情報を北大西洋条約機構(NATO)駐アフガニスタン軍司令官が9月8日、パキスタン軍トップのキアニ陸軍参謀長に通報。参謀長は対策を約束したが実際は放置したようだ。
 同10日、爆弾1個がカブール東部のNATO基地で爆発、米兵77人が負傷。同13日、米大使館が攻撃を受けたのである。
 オバマ政権は14年までにアフガン側に治安権限を移譲する工程表を履行するため、2009年秋以降は特に、ハッカニ・グループを標的にした作戦を優先した。10年夏には特殊部隊の出撃を急増させ、200人の指導者と1066人の兵士を殺害ないしは捕獲。同グループの本拠地がある北ワジリスタンへの無人機攻撃も大幅に増やした。
 こうした米軍の攻撃の結果、同グループは本拠地を出て、カブール攻撃に主眼を移したのか。それともISIから通報を受けて、無人機攻撃を避け、勢力を増強したのかどうか。9月初め、アフガニスタン駐留米軍司令官からCIA長官に就任したデービッド・ペトレアス氏の判断が注目される。

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執筆者プロフィール
春名幹男 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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