あるとき、日本文学を専攻したフランス女性と話すことがあった。どうして日本に興味を持ったのか尋ねると、「こんなに色彩の表現が豊かな言語は、ほかにないと思ったから」と言う。 西洋では、緑は緑。黄と青が物理的に混ざったもの。青みがかったものまで、緑という言葉の守備範囲に入れてしまう。それに比べて、日本は若草色、萌黄色、深緑……と実にいろいろな表現があるというのだ。赤やピンクにしても、西洋の感覚にはない、色の奥にふと広がる表情や景色があるのだという。 たとえば薄紅といっただけで、はらはらと散る桜の淡い色が、茜色といえば、闇に沈みながらもまだ燃える空の色、これが朱といえば、堂々とした大鳥居が浮かんでくる。

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