「バットではなく、テニスラケットを持った打者に投げている」 これが、イチローと対戦したときに抱いた感覚だった。といってもチームメイト、機会は多くない。紅白戦でせいぜい年に一度がいいところ。記憶をたどってもイチローとの対戦は五、六回しかない。 キャンプでお互い調整中とはいえ、せっかくのチャンス、何とか抑えたいと思うのは当然だろう。普通なら、私の決め球のフォークボールでタイミングを外して打ち取ろうとするところだが、彼が相手ではそうはいかない。タイミングを外されてもイチローには関係ないのだ。 野球に詳しくない方のために説明すると、フォークというのは、打者の近くに来て急に落ちる球種だ。並みの打者なら、三振か内野ゴロになるケースでも、イチローのバットは逃さない。彼は、ボールを点や線で捉えていない。面で捉えるのだ。あたかもテニスラケットを手にしているかのごとく。
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