行き先のない旅 (20)

17世紀の絵画に見るオランダの「宗教とモラル」

執筆者:大野ゆり子 2005年1月号
エリア: ヨーロッパ

 アムステルダムの国立美術館にあるフェルメールの前には、日本からも多くの人が足を運んでいる。窓から差し込む陽光の温かみや、ミルクを注ぐ音まで感じ取れそうな静謐な空間。まるでスナップショットのように人物の一瞬の表情を永遠の中に封じ込めた作品は、比較的最近まで、当時のオランダの室内風景を忠実に再現した写実的な作品だと思われてきた。 しかし、写真とみまがうばかりに緻密にかかれたオランダ風俗画には、なぜそこに描き込まれたか判らない場違いな小道具が登場する。ここ二十年ほどの研究では、この風俗画が実際の風景ではなく、当時、誕生間もないオランダの国策だった宗教教育、モラル指導を反映していることが判ってきた。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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