六十年後のいま、被爆二世たちの揺れる思い

執筆者:草生亜紀子 2005年8月号
エリア: アジア

放射線被曝の影響は被爆者の子にも及ぶのか――。いまも消えることのない原爆の爪痕を追う。 昨年四月半ばの土曜日、東京・文京区民センターの一室で、ある会合が開かれた。「子どものころ、鼻血が出ると止まらなくて困った」「小さい時からずっと貧血だった」「親が年を取って、病気や介護のことで悩んでいる」 ほとんどが初対面だったが、話すうちに共通の健康不安を抱えていることがわかった。彼らは原爆被爆者を親にもつ「被爆二世」である。 会を呼びかけた東京都職員の山田みどりさん(五六)の父親は広島近隣の町役場に勤めており、町民救援のため原爆投下当日から広島市に入って被曝した。山田さんは三十四歳の時に乳癌を患ったが、その時は原爆の放射線の影響など考えもしなかった。小さな子を抱え、「今、死ぬわけにはいかない」と、それだけを考えて治療に専念した。ただ、父親は自分の被曝と関係あるのではないかと考え、悲しんでいたという。

カテゴリ: 社会
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執筆者プロフィール
草生亜紀子(くさおいあきこ) 翻訳・文筆業。NGO職員。産経新聞、The Japan Times記者を経て、新潮社入社。『フォーサイト』『考える人』編集部などを経て、現職。
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