行き先のない旅 (57)

欧州で誇らしい「日本の色」

執筆者:大野ゆり子 2008年2月号
エリア: ヨーロッパ

 あるとき、日本文学を専攻したフランス女性と話すことがあった。どうして日本に興味を持ったのか尋ねると、「こんなに色彩の表現が豊かな言語は、ほかにないと思ったから」と言う。 西洋では、緑は緑。黄と青が物理的に混ざったもの。青みがかったものまで、緑という言葉の守備範囲に入れてしまう。それに比べて、日本は若草色、萌黄色、深緑……と実にいろいろな表現があるというのだ。赤やピンクにしても、西洋の感覚にはない、色の奥にふと広がる表情や景色があるのだという。 たとえば薄紅といっただけで、はらはらと散る桜の淡い色が、茜色といえば、闇に沈みながらもまだ燃える空の色、これが朱といえば、堂々とした大鳥居が浮かんでくる。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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