クオ・ヴァディス きみはどこへいくのか?

「ボート・ピープル」から40年

執筆者:徳岡孝夫 2015年5月11日
エリア: 中東 アジア

 密航船に乗って船と共に沈んだ乗客の正確な数は、リビアの海岸を出たときすでに不明だった。
 通信社の速報には「約900人を超すアフリカ難民を積んだ密航船が、リビアの海岸を出てシチリアに向かう途中に転覆、沈没し……」となっているが、出港地では「そんなものじゃない。1000人はいたはずだ」という声が出ている。とにかく何百人の単位で数えられる女子供を含む難民が、地中海に呑まれて死に、または行方不明になった。
 武器を持つ勢力に迫害され、国民を食わせてくれる政府はなく、隣の部族には襲われる。彼らは命からがら逃げる決心をしたのだろう。
 住み慣れた土地を捨て、なけなしのカネで船賃を払って、ヨーロッパという別世界へ逃げようとしたのだ。命懸けである。
 船を世話してくれるブローカー、またその人を紹介してくれるブローカーのブローカーがいたのだろう。終戦直後のヤミ市時代、秩序を失った日本の社会も、ブローカーによって回っていた。

カテゴリ: 社会 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
徳岡孝夫(とくおかたかお) 1930年大阪府生れ。京都大学文学部卒。毎日新聞社に入り、大阪本社社会部、サンデー毎日、英文毎日記者を務める。ベトナム戦争中には東南アジア特派員。1985年、学芸部編集委員を最後に退社、フリーに。主著に『五衰の人―三島由紀夫私記―』(第10回新潮学芸賞受賞)、『妻の肖像』『「民主主義」を疑え!』。訳書に、A・トフラー『第三の波』、D・キーン『日本文学史』など。86年に菊池寛賞受賞。
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