野党排除で加速する独裁体制
「Freeカンボジア! Freeデモクラシー! Fairエレクション!」
声を上げて銀座の街を歩くのは、日本に住むカンボジアの人々だ。梅雨の合間の青空が広がった6月25日、およそ300人が集まり、「独裁反対」「公正な選挙を」といった日本語のプラカードを手に、祖国の現状を日本人に訴える。
カンボジアではそれほどに、いま民主主義が失われつつある。
1985年に首相に就任して以来、40年近くに亘って権力を握り続けるフン・セン氏(70)の独裁は強化される一方だ。7月23日に行われる予定の総選挙からは、有力最大野党であるキャンドルライト党の参加資格が剥奪された。表向きは「書類の不備」という理由だが、昨年6月の地方選挙で22%の得票率を獲得したキャンドルライト党を総選挙から排除する狙いがあるとみられる。
有力野党への不当な弾圧はこれが初めてではない。2013年の総選挙で半数に迫る票を得た救国党は2017年に解党させられた。野党政治家や支持者への逮捕や拘束、暴力なども相次いでいる。2022年12月に来日し、日本政府に対して「公正な選挙への支援を」と求めたキャンドルライト党副党首のタッチ・セター氏(69)も帰国後に逮捕された。政府を批判した政治評論家のケム・レイ氏は2016年に射殺されている。犯人は「金銭トラブルが原因」と供述したが、なんらかの政治的背景があったと考えられている。政権に批判的だったメディアは事業免許を取り消された。
銀座での行進の先頭に立ったカット・ソムニエンさん(35)は、夫を失った。
「2014年のことです。賃上げデモに参加していた夫は、治安部隊の発砲で亡くなりました」
夫の父、つまりソムニエンさんの義父は、どういう経緯で発砲に至ったのか、その正当性を調査してほしいとメディアで訴えていたが、2016年に不審な交通事故で命を落としたという。
「義父は警察からたびたび呼ばれて『訴えをやめないとなにがあっても知らない』と言われていたんです」
その義父とともに夫の死について活動をしていたソムニエンさんも身の危険を感じ、祖国を離れることにした。同じように、政府の弾圧によって隣国のタイや欧米に逃れるカンボジア人がいま急増しているのだが、ソムニエンさんが選んだのは日本だった。
「技能実習という制度があることを知ったからです」
銀行に借金をして、仲介業者に6500米ドル(約94万円)を払い、技能実習生となった。2018年に来日すると、新潟県でキノコ栽培に従事。
「手取りで1200~1300ドル(約17~19万円)はもらえると聞いていたのですが、実際は10万円前後でした」
それでも働き続け、借金を返し続けた。そして彼女のように「実は政治的迫害から逃れてきたカンボジア人技能実習生」が、日本に増えている。野党の集会に参加したために教員の資格を剥奪された人が、日本に逃れて技能実習生として働いているケースもあるという。
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