本年は米国によるベネズエラ攻撃と国家元首の拉致で幕を開け、グリーンランドの領有への動きとなり、「ドンロー主義」の年になるのかと思っていると、相変わらずイランにも手を出そうとしている。ドナルド・トランプ大統領の直感と本能に導かれる米国の行動からは混乱と混迷が残るだけであり、未来への安定した世界の展望は全く開けない。
東アジアに目を転じれば、中国の急速な台頭を前に、そのトランプ大統領の米国が決定的に重要な役割を果たす構造に変わりはない。東アジアも大変な混迷期に入ったのである。その要が台湾問題である。ここに焦点を当てて、米中関係、日中関係、そして日本の大きな戦略について述べてみたい。
その基本となる立ち位置は、日本の平和と繁栄を担保するための「大戦略」は、長期的な広い視野からの判断に基づかなければならないという点である。前提となるのは中国との安定した政治関係と、それを可能にする強靱で持続的な政治対話である。筆者は、それは可能だと判断している。中国を敵と見なして押さえ込みに邁進すれば、結局、そういう中国を作りだす。中国を冷静かつ客観的に観察し、われわれに有利な方向に誘導するくらいの気概を持ちたいものである。
「ドンロー主義」が中国に与える心理的影響
米国の「ドンロー主義」、あるいは気まぐれな動きが、中国の対外攻勢を助長するのではないかと懸念する向きも多い。だが中国指導部にとり最大の関心は国内にあり、米国のもたらす不確実性が国内の安定と発展に与えるマイナスの影響を最小化することが第一である。このチャンスを活かし、積極的に外に打って出るという段階には未だない。中国共産党は内外の趨勢を読み解き、包括的な長期戦略を立て、それを計画と政策に落とし込んで実現することには長けているが、臨機応変の対応は不得手だ。新たな長期戦略が政策として打ち出されるまでは、これまでの方針に基づく対応となる。
ただ、米国の動きが武力行使のハードルを下げたことは事実である。これが中国に対しどのような心理的影響をあたえるのかを、特に東シナ海、南シナ海および中印間の領有権争いに焦点を当てて観察していく必要があろう。
台湾問題は、中国にとり内政問題であり、内政の論理が優先され、これまでの基本戦略を修正することはない。孫子の兵法を引き合いに出すまでもなく、武力解決は下策であり、武力を使わずに目的を達成するのが上策なのだ。かくして軍事力はちらつかせながらも、知恵を絞って台湾の人たちに統一を受け入れさせるのが基本戦略となる。米国が引けば、その分、中国の台湾に対する影響力は強まる。
その台湾であるが、近年、台湾をめぐる状況の変化に対する中国指導部の危機感は高まっている。1つは、「台湾の台湾化」の進行であり、台湾統一への大きな障害となると考えている1。とりわけ2024年に総統となった頼清徳氏に対する警戒感は並大抵のものではない。2つ目は、2017年に始まった米国の対中政策の大転換であり、中国との関係悪化と比例して米国の台湾へのテコ入れが強化されたことである。日本も、米国と比べれば遠慮がちだが、それでも国会議員を中心に台湾支援の動きを強めている。中国は、台湾がますます独立の方に向かい、それを日米が積極的に支援する構図となったことに大きな警戒感を抱いている。
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