Weekly北朝鮮『労働新聞』 (76)

金正恩自らSUVやゴムボートに乗り鴨緑江の洪水被害を視察(2024年7月28日~8月3日)

執筆者:礒﨑敦仁 2024年8月5日
タグ: 北朝鮮 金正恩
エリア: アジア
SUVのタイヤが水没するほどの現場を見て回る金正恩国務委員長(『労働新聞』HPより)
記録的な豪雨で中朝国境を流れる鴨緑江が氾濫したことを受け、金正恩国務委員長が自ら現場へ赴き被害状況を視察した。ライフジャケットを着けずにゴムボートに乗って浸水地区を巡るなど、最高指導者の陣頭指揮と「人民愛」「人民大衆第一主義」を誇示する場となった。7月26日に始まったパリ五輪については、『労働新聞』ではなく『体育新聞』などで詳しく報じている模様。【『労働新聞』注目記事を毎週解読】
 

 北朝鮮で深刻な洪水被害が発生した。7月29日付は、金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が平安(ピョンアン)北道の新義州(シニジュ)市と義州(ウイジュ)郡の被害現場を視察したとの記事であった。金正恩がSUVに乗って前後輪ともに水没するほどの現場を見て回る写真が掲載された。中国との国境河川である鴨緑江(アムノックガン)が氾濫し、約5000人が浸水危険区域に孤立したが、空軍ヘリコプターと海軍、国境警備隊の救助艇によって約4200人が救助されたとして、金正恩が「わが党の誇りでありわが国の誇り」だと褒め称えた。一方で、必要な対策を講じてこなかったとして社会安全省(警察)を含む国家機関と地方幹部の「職務怠慢行為」を強く非難した。そのうえで、「災害防止事業を単純に自然との闘いとしてではなく、国家と人民に対する服務姿勢と観点の問題、重大な政治思想的問題として深刻に受け止めて触角を最大限に尖らせ、あり得ない極度の状況まで予見して対策を立てていけば、いくらでも事故を防止することができる」との主張を展開した。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
礒﨑敦仁(いそざきあつひと) 慶應義塾大学教授。専門は北朝鮮政治。1975年生まれ。慶應義塾大学商学部中退。韓国・ソウル大学大学院博士課程に留学。在中国日本国大使館専門調査員、外務省第三国際情報官室専門分析員、警察大学校専門講師、米国・ジョージワシントン大学客員研究員、ウッドロー・ウィルソンセンター客員研究員など歴任。著書に『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)、共著に『最新版北朝鮮入門』(東洋経済新報社)など。
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