海上自衛隊で特定秘密のずさんな取扱いや潜水手当の不正受給など、相次ぎ発覚した一連の不祥事の責任を取る形で7月19日、海自トップの酒井良海上幕僚長(61)が防衛省を去った。「とにかく調査を急げ」。手当不正受給の内部調査について、こう厳命していた酒井氏は辞任直前、「組織文化に大きな問題がある」と発言し、波紋を呼んだ。改革派と目される酒井氏は守旧派のOBらとの対立も抱えていたようだ。旧帝国海軍から連綿と続く歴史の上に立つ海自の“闇”を、酒井氏は一身に背負おうとしていたのかもしれない。
「原因の一つが順法精神の欠如、組織のガバナンス能力の欠落だ。私は組織管理の職責を果たせなかった。新たな体制で問題解決を図るのが適切だと判断されたものと考えている」
7月12日の記者会見で酒井氏は、事実上の更迭となった自身の処遇について、一言ずつ噛み締めるようにゆっくりと述べた。
「組織文化に大きな問題がある」
酒井氏を更迭に追い込んだ不祥事の一つが、特定秘密のずさんな取扱いだ。今年4月、護衛艦「いなづま」艦内の戦闘指揮所(CIC)で、特定秘密保護法で定められた特定秘密を扱うための資格審査「適性評価」を受けていない隊員が、特定秘密に該当する船舶の航跡情報を転記する任務に2カ月ほど当たっていたと海自が発表した。
これを機に防衛省が調査したところ、38隻の艦艇で問題のある運用が判明した。海自はCICで特定秘密を扱う隊員にのみ適性評価を受けさせていたが、実際は扱わない隊員もCICに出入りしていた。法律では適性評価を受けていない人が特定秘密を「知り得る状態に置いた」だけで「漏洩」と定義する。このことを海自は組織全体で認識していなかったのだ。
もっとも海自に同情的な見方も強い。木原稔防衛相自身が12日の記者会見で、「狭い艦艇の中では遠くから見えてしまう状況、遮るものがないことはあり得る」と話し、制度と運用が適合していないとの認識を示した。
また、艦艇乗員の慢性的な人員不足で、交代を確保するには無資格者を充てざるを得ない事情もある。全乗員が資格を持てばいいかというと、審査に半年以上かかるケースもあり、いたずらに秘密の扱い者を増やすのは望ましくないとの観点もある。
それでも厳しい判断が下されたのは、同盟国との関係も関わるからだ。
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