物流の2024年問題は“杞憂”だったか――「愛媛の魚を仙台に届けない」という盲点

執筆者:首藤若菜 2025年11月13日
エリア: アジア
「物流2024年問題」は2030年を見据えた社会全体への問いとして続いている (C)時事
大企業では輸送の効率化が進み、全体の貨物輸送量もコロナ禍前の水準が回復されていないため、大きな混乱は回避された。だが、中小企業や鮮度が求められる商品では、「働き方改革」が求める法令遵守に対応しきれず、“従来通り”か、輸送からの撤退かという、皮肉な選択も生じている。2030年度には人手不足の深刻化から輸送能力の30%超が不足するとの試算もあり、問題は一時的に「乗り越えた」ように見えているにすぎない。

はじめに

「2024年問題」では、物流の停滞が起きると懸念されたが、現実には大きな混乱なく2024年が過ぎた。「2024年問題」は杞憂だったのだろうか。本稿では、「2024年問題」がどのようにして乗り越えられたのか、この「問題」は終わったのかを考えたい。

 なお、ここでいう「問題」とは、ドライバーの労働時間の短縮そのものではなく、それによって物流の輸送能力が逼迫し、社会や企業活動に影響が及ぶことを指す。

物流「2024年問題」とは何だったのか

 2024年4月からトラックドライバーにも「働き方改革」が適用され、残業時間の上限が年間960時間となった。さらにドライバーには、労働の特殊性ゆえに、労働基準法に加えて改善基準告示という別のワークルールもある。これも見直され、拘束時間や休息期間が改正された。こうした労働時間規制で輸送能力の低下が懸念されたのが、物流の「2024年問題」である。実際に貨物輸送量の14.2%・約4億トンの荷物が運べなくなるとの試算も発表された(大島2022)。

カテゴリ: 経済・ビジネス
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執筆者プロフィール
首藤若菜(しゅとうわかな) 立教大学経済学部教授。日本女子大学大学院人間生活学研究科博士課程単位取得退学、博士(学術)。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス労使関係学部客員研究員、山形大学人文学部助教授、日本女子大学家政学部准教授などを経て2018年より現職。専攻は労使関係論、女性労働論。著書に、『物流危機は終わらない―暮らしを支える労働のゆくえ』(岩波新書)、『雇用か賃金か 日本の選択』(筑摩選書)、『間違いだらけの日本の物流』(共著、ウェッジ)など多数。
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