「今週のトランプ」ラウンドアップ
「今週のトランプ」ラウンドアップ (40)

トランプ大統領の発言とアクション(12月11日~17日):「ワイルズ発言」報道を連携プレイで巧みに火消し、建国250周年に向け結束強化

執筆者:安田佐和子 2025年12月20日
エリア: 北米
ワイルズ首席補佐官の「大統領はアルコール依存症のような性格」発言報道ではトランプ氏(左)本人をはじめ閣僚が次々と擁護に動いた[2025年12月19日、アメリカ・ワシントンDC](C)EPA=時事
トランプ大統領と政権キーパーソンから飛び出した1週間分の発言を、ストリート・インサイツ代表取締役・安田佐和子氏がマーケットへの影響を中心に詳細解説。▼国民向け演説では「暮らし向きの危機」への対応、インフレ減速を強調▼「高水準の失業率」「製造業の雇用減少」には言及せず▼「大統領はアルコール依存症のような性格」発言報道に「ルビオ→バンス」の連携プレイ▼「2期目の大統領」としては悪くない支持率

 今年の「新語・流行語大賞」年間大賞には、高市早苗首相の「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」が選ばれた。英語圏では、オックスフォード辞書が「今年の単語」として、「rage bait」を発表。「怒りや憤りを引き起こすことを意図して、わざと苛立たせる・挑発的・不快な内容に仕立てられたオンラインコンテンツ」を指す。日本語ならば「炎上商法」といったところだろう。

 ドナルド・トランプ大統領ほど「炎上」を効果的に使いこなす政治家はいない。映画『スタンド・バイ・ミー』などを手掛けたロブ・ライナー氏の殺害事件について、トゥルース・ソーシャルで「(トランプ氏に対する批判を続けてきたライナー氏が)ドナルド・J・トランプ大統領への激しい執着により人々を狂わせた」ことがその死に繋がったと述べ、「トランプ錯乱症(TRUMP DERANGEMENT SYNDROME)」と表現してみせた。当然ながら民主党のみならず一部共和党からもバッシングを受けたが、ニュースのヘッドラインを飾ることには成功した。

国民向け演説では「暮らし向きの危機」への対応、インフレ減速を強調

 もっとも、足元では支持率が低迷している。2026年の建国250周年と中間選挙を前に、「暮らし向きの危機(affordability crisis)」が問題視され、物価の高止まりへの不満も燻る。NPR/PBS/マリストが12月8~11日に1440人を対象に実施した世論調査では、経済政策の支持率は36%と政権発足以来の最低を更新した。

 トランプ氏が12月17日に国民向け演説を行ったのは、『暮らし向きの危機』への配慮に加え、この11カ月間の実績を強調する狙いがあったとみられる。演説の冒頭、トランプ氏は「11カ月前、私は深刻な課題を抱えた状況を引き継いだ。いま、その立て直しに取り組んでいる」と語りかけた。演説は18分間にわたり、ジョー・バイデン前政権の批判と、自身の政権での成果の強調を軸に構成。特に物価については、バイデン前政権で「ガソリンは30〜50%上昇、ホテル料金は37%、航空運賃は31%上昇したが、足元でそれらはすべて下がり始めており、しかも急速に低下している」と主張した。

 米消費者物価指数(CPI)の品目別にバイデン政権とトランプ政権のインフレ動向を比較し【チャート1】、自身の経済政策がインフレ抑制を促していると訴えるのも忘れない。また、バイデン前政権下では、新規住宅ローンの年間負担が1万5000ドル増えたが、現政権では11カ月でその負担を3000ドル減らしたと喧伝した。その他、18兆ドルの対米投資を呼び込んだことや、「最大600%」の薬価引き下げを狙った取り組みを進めていることなども強調した。

【チャート1:トランプ政権とバイデン政権:CPI品目別のインフレ比較】

 多くのメディアなどは、こうした数字に懐疑的だ。

カテゴリ: 政治
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執筆者プロフィール
安田佐和子(やすださわこ) ストリート・インサイツ代表取締役、経済アナリスト 世界各国の中銀政策およびマクロ経済担当の為替ライターの経験を経て、2005年からニューヨークに拠点を移し、金融・経済の最前線、ウォール街で取材活動に従事するかたわら、自身のブログ「My Big Apple NY」で現地ならではの情報も配信。2015年に帰国、三井物産戦略研究所にて北米経済担当の研究員、双日総合研究所で米国政治経済や経済安全保障などの上級主任/研究員を経て、株式会社ストリート・インサイツを設立。その他、トレーダムにて為替アンバサダー、計量サステナビリティ学機構にて第三者委員会委員、日本貴金属マーケット協会のフェローを務める。
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