アムステルダムの国立美術館にあるフェルメールの前には、日本からも多くの人が足を運んでいる。窓から差し込む陽光の温かみや、ミルクを注ぐ音まで感じ取れそうな静謐な空間。まるでスナップショットのように人物の一瞬の表情を永遠の中に封じ込めた作品は、比較的最近まで、当時のオランダの室内風景を忠実に再現した写実的な作品だと思われてきた。 しかし、写真とみまがうばかりに緻密にかかれたオランダ風俗画には、なぜそこに描き込まれたか判らない場違いな小道具が登場する。ここ二十年ほどの研究では、この風俗画が実際の風景ではなく、当時、誕生間もないオランダの国策だった宗教教育、モラル指導を反映していることが判ってきた。

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