父は生前、芋を好まなかった。どうやら、戦時中に飽き飽きするほど食べた「芋粥」のせいらしい。実際のところは、箸でどんなにかきまわしても、あたる具は無く、お腹にたまる芋が入っていれば上出来な方だったというが、だからといって、芋に感謝の念がわくはずもない。戦後、いくらでも他のものが食べられる時代が来ると、芋はあえて食卓で見たいと思う対象ではなくなった。知人のご主人も、同じような理由でスイートポテトが嫌いだという。どんなに奥さんが腕によりをかけた甘いお菓子でも、こればかりは、口にすると、ひもじい時代を思い出して苦い顔にならざるを得ないそうだ。
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