ブックハンティング・クラシックス
ブックハンティング・クラシックス (18)

生物学の大著が巻き起こした不毛かつ意義深い大論争

執筆者:長谷川眞理子 2006年8月号
タグ: 生物 アメリカ

『社会生物学』エドワード・O・ウィルソン著/伊藤嘉昭監修新思索社 1999年刊「社会生物学論争」というものをご存じだろうか? 一九七五年以降、欧米で十年以上にわたって続いた、イデオロギー色のきわめて強い学問論争である。論争にかかわったのは、進化生物学者、行動生態学者、人類学者、社会学者、哲学者、フェミニスト、マルキシストなどなどである。大きく分ければ、進化生物学者と人文社会系諸学の学者との間の論争だが、進化生物学者、またはもっと広く生物学者の間でも、意見の違いは顕著にあった。それは、異なる学問領域間の論争というよりは、人間という存在をどう見るかについての人間観の違い、イデオロギーの違いに基づく論争でもあった。しかしまた、学問のやり方や歴史が異なることに端を発する、誤解に基づく不毛な論争でもあった。イデオロギー闘争と誤解が大部分を占めるのであれば、建設的な意見はあまり望めない。事実、「社会生物学論争」の多くは、消耗するだけの水掛け論の応酬でもあった。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
長谷川眞理子(はせがわまりこ) 進化生物学者。1952年、東京都生まれ。東京大学理学部卒業。同大学院理学系研究科博士課程修了。理学博士。専門は進化生物学、行動生態学。イェール大学客員准教授、早稲田大学教授、総合研究大学院大学教授・学長などを経て、2023年4月より日本芸術文化振興会理事長。著書に『生き物をめぐる4つの「なぜ」』(集英社新書)、『モノ申す人類学』『自然人類学者の目で見ると』(いずれも青土社)、『進化的人間考』(東京大学出版会)、『美しく残酷なヒトの本性 遺伝子、言語、自意識の謎に迫る』 (PHP新書) など多数。
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