中国「革命聖地」ツアーをゆく

執筆者:樋泉克夫 2007年6月号
エリア: アジア

中国・華人研究の第一人者が、思い立って出かけた「聖地巡礼」の旅。出くわしたのは人々の呵々大笑――。 北京政府は中国各地にある共産党革命に因んだ施設や抗日記念館を「愛国主義教育基地」とし、毛沢東らの悪戦苦闘の跡を現地で体験的に学習させ、先人の貴い犠牲があったからこそ現在の繁栄が達成されたのだと主張する。いわば「共産党唯一正当史観」で国民を徹底教育し、共産党への支持離れを防ぎ、政権の求心力を高めようというのだろう。 政権成立時も共産党政権は共産党唯一正当史観で国民を教育し、政権への熱烈な支持を求めたことがある。「憶苦運動」と称し、地主の苛斂誅求や国民党の残酷政治という「苦」を憶い起こさせ、現在の稔り豊かな生活は共産党政権があったればこそだとの感謝の念を国民の意識に刷り込ませようとしたわけだ。たしかに当時のように国民全体が等しく貧しかった時代であればこそ、憶苦運動は一定の成果を挙げたといっていい。だが、柳の下に二匹目のドジョウはいそうにない。

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執筆者プロフィール
樋泉克夫(ひいずみかつお) 愛知県立大学名誉教授。1947年生れ。香港中文大学新亜研究所、中央大学大学院博士課程を経て、外務省専門調査員として在タイ日本大使館勤務(83―85年、88―92年)。98年から愛知県立大学教授を務め、2011年から2017年4月まで愛知大学教授。『「死体」が語る中国文化』(新潮選書)のほか、華僑・華人論、京劇史に関する著書・論文多数。
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