行き先のない旅 (71)

イタリアの男たちが危ない

執筆者:大野ゆり子 2009年4月号
エリア: ヨーロッパ

 男性が女性に声をかける、いわゆる「ナンパ」というテクニックを国際比較するとしたら、恐らくイタリア人男性の右に出るものはいないだろう。以下は私が目撃した例である。 夕暮れ時のフィレンツェで、女性が一人でアルノ川沿いを歩いていた。時刻は午後六時ごろ。夕闇が少しずつあたりを覆い、沈みかける太陽が水面に映って、きらきらと黄金色に輝いている。そこに偶然通りすがった(ように見える)男が、「美しい夕焼けだよね」と女に話しかけた。ここで「いいえ」という女はまずいない。相手の意図がわからないから、とりあえず「そうね」とか、「ええ、ほんと」とかいう相槌になる。そうすると、「今、旅行中?」とか、「ここに住んでるの?」とか、会話の輪は回転を始める。

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執筆者プロフィール
大野ゆり子(おおのゆりこ) エッセイスト。上智大学卒業。独カールスルーエ大学で修士号取得(美術史、ドイツ現代史)。読売新聞記者、新潮社編集者として「フォーサイト」創刊に立ち会ったのち、指揮者大野和士氏と結婚。クロアチア、イタリア、ドイツ、ベルギー、フランスの各国で生活し、現在、ブリュッセルとバルセロナに拠点を置く。
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