続・現代アフリカの紛争(読者質問への回答その1として)

執筆者:白戸圭一 2010年9月14日
タグ: スペイン 日本
エリア: アフリカ

 コンゴ東部紛争での性暴力について前回書いたところ、読者の方からいわゆる「部族対立」と現代アフリカの紛争の違いについて説明して欲しい、というご質問を頂戴しました。回答が遅くなり大変失礼致しました。

 まず、「部族」という用語ですが、日本の社会科学系アフリカ研究者で「部族」の用語を使って論文を執筆する人はほぼ皆無となりました。国際援助機関などの文書でも、ほとんど「部族」は使われていません。現在でもこの言葉を不用意に用いる情報伝達者は、残念ながら日本国内においてはメディア関係者のみというのが現状です。
「集団の成員の数が多い場合は民族、少ない場合は部族」という漠然とした認識も存在しますが、スペイン国内のバスク人が人口200万人程度でありながら「民族」「バスク人」として表記される一方、人口900万に達する南アフリカのズールーについて「ズールー族」「部族」と表記することには合理性がないと思われます。したがって、本欄では原則として「民族対立」と表記することをご了承下さい。敢えて「部族対立」と表記する場合は、そうした言葉を不用意に用いる一部メディアへの批判的な意味を込める場合に限ることとします。

前置きが長くなって申しわけありませんが、主にメディアによって流布された「部族対立」という認識の枠組みは、現代アフリカのほぼ全ての紛争が実際には国内・国際政治の産物だという事実を理解するうえで、大きな障害になってしまっています。「部族対立」という用語には、二つの「部族」が伝統的かつ恒常的に対立しており、現代の紛争もその延長上にあるかのようなイメージがあるからです。アフリカ報道に携わってきた者の一人としては責任を感じざるを得ません。

カテゴリ: カルチャー
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執筆者プロフィール
白戸圭一(しらとけいいち) 立命館大学国際関係学部教授。1970年生れ。立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了。毎日新聞社の外信部、政治部、ヨハネスブルク支局、北米総局(ワシントン)などで勤務した後、三井物産戦略研究所を経て2018年4月より現職。著書に『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『日本人のためのアフリカ入門』(ちくま新書)、『ボコ・ハラム イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織』(新潮社)など。京都大学アフリカ地域研究資料センター特任教授、三井物産戦略研究所客員研究員を兼任。
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