9・11後の「反テロ」対策が生んだアフリカ・東南アジアの強権政治

執筆者:白戸圭一 2023年4月18日
カテゴリ: 政治 軍事・防衛
エリア: アジア アフリカ
カメルーンでは2016年以にフランス語圏に有利な差別的政策が取られ、平和的に抗議した活動家が「反テロ」の名目で拘束された。写真は活動家の解放を求めるデモ参加者=撮影2017年9月22日(C)AFP=時事
 
9・11以降の「反テロ」の試みによって世界的にテロの脅威が逓減している一方で、むしろテロの脅威が増しているのがアフリカのサハラ以南、とりわけマリ、ニジェール、ブルキナファソといった西アフリカのサヘル地帯だ。権威主義的な政権が「反テロ」を大義名分に反対勢力を弾圧することで、市民のテロ組織への参加を促す結果を招いているという。

 世界の耳目がウクライナでの戦争に注がれるなか、3月中旬、国際社会の安全保障に関わる一本の報告書が刊行された。オーストラリアのシンクタンク「Institute for Economics and Peace」が、2012年から刊行しているGlobal Terrorism Index(グローバル・テロリズム・インデックス)2023年版である。過去1年間に世界各地で発生したテロの件数や被害規模に関するデータが示されており、毎年発表されるため、各国の情勢の推移を継続的に把握できる利点がある。

 最新の報告書を読みつつ、筆者が専門とするアフリカ諸国の情勢を思い浮かべると、2001年9月11日の米国同時多発テロ(9・11テロ)以来およそ20年間続いてきた「反テロ」の試みがアフリカにおいては奏功せず、国家による市民の人権抑圧を助長する結果に終わっているケースが多いことを痛感させられる。国際社会は今日、「反テロ」を大義名分とする様々な施策が生み出した強権政治の問題に向き合う時期を迎えているのではないか。

世界全体では逓減しているテロの脅威

 2023年版報告書によれば、2022年に世界で発生が確認されたテロは3955件で、前年の5463件から3割近く減少した。また、テロによる犠牲者は6701人で、こちらも前年の7142人から減少した。

 世界全体のテロの発生件数、犠牲者数のピークは、「イスラーム国(IS)」がイラク・シリアにまたがる領域を支配し、ナイジェリアのボコ・ハラムの活動が最も活発だった2014~15年であった。2014年には、世界93カ国で1万3370件のテロが確認され、32658人が犠牲になっていた。その頃と比較すれば、現在はテロの件数、犠牲者数ともに大きく減少しており、世界全体でテロの脅威は逓減していると言って差し支えないだろう。

サハラ以南では顕著な増加傾向

 しかし、サハラ以南アフリカの状況に焦点を当てると……

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執筆者プロフィール
白戸圭一(しらとけいいち) 立命館大学国際関係学部教授。1970年生れ。立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了。毎日新聞社の外信部、政治部、ヨハネスブルク支局、北米総局(ワシントン)などで勤務した後、三井物産戦略研究所を経て2018年4月より現職。著書に『ルポ 資源大陸アフリカ』(東洋経済新報社、日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『日本人のためのアフリカ入門』(ちくま新書)、『ボコ・ハラム イスラーム国を超えた「史上最悪」のテロ組織』(新潮社)など。京都大学アフリカ地域研究資料センター特任教授、三井物産戦略研究所客員研究員を兼任。
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