アラビア石油のカフジ原油基地を訪れたのは二十七年ぶりだった。 街路樹が茂って、木陰を供している。あのときは、小さな苗木が一つ一つ鉄の檻のようなものの中に入れられていた。羊に食べられないようにとのことだった。日本への電話はやってみないと分からない。あきらめなさい、と聞かされた。いまは同行してくれた職員が車の中から携帯電話で東京の本社とやりとりしている。 一九七三年五月、私は中曾根康弘通産相に同行して、ここを訪問した。通産相一行は、イラン、サウジアラビア、クウェート、アブダビへの旅の途中、寄った。国際石油情勢が何となく不穏だ、中東産油国を歴訪し、日本に対する心証をよくしておこう、との中曾根流の風見鶏外交だった。

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