一国生活主義 石川良孝『オイル外交日記』

 アラビア石油のカフジ原油基地を訪れたのは二十七年ぶりだった。 街路樹が茂って、木陰を供している。あのときは、小さな苗木が一つ一つ鉄の檻のようなものの中に入れられていた。羊に食べられないようにとのことだった。日本への電話はやってみないと分からない。あきらめなさい、と聞かされた。いまは同行してくれた職員が車の中から携帯電話で東京の本社とやりとりしている。 一九七三年五月、私は中曾根康弘通産相に同行して、ここを訪問した。通産相一行は、イラン、サウジアラビア、クウェート、アブダビへの旅の途中、寄った。国際石油情勢が何となく不穏だ、中東産油国を歴訪し、日本に対する心証をよくしておこう、との中曾根流の風見鶏外交だった。

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執筆者プロフィール
船橋洋一 アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。東京大学教養学部卒。1968年、朝日新聞社入社。朝日新聞社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長、コラムニストを経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。米ハーバード大学ニーメンフェロー(1975-76年)、米国際経済研究所客員研究員(1987年)、慶應義塾大学法学博士号取得(1992年)、米コロンビア大学ドナルド・キーン・フェロー(2003年)、米ブルッキングズ研究所特別招聘スカラー(2005-06年)。2013年まで国際危機グループ(ICG)執行理事を務め、現在は、英国際問題戦略研究所(IISS)Advisory Council、三極委員会(Trilateral Commission)のメンバーである。2011年9月に日本再建イニシアティブを設立し、2016年、世界の最も優れたアジア報道に対して与えられる米スタンフォード大アジア太平洋研究所(APARC)のショレンスタイン・ジャーナリズム賞を日本人として初めて受賞。近著に『フクシマ戦記 10年後の「カウントダウン・メルトダウン」』(文藝春秋)、『自由主義の危機: 国際秩序と日本』(共著/東洋経済新報社)、『地経学とは何か』(文春新書)、『カウントダウン・メルトダウン』(第44回大宅賞受賞作/文春文庫)など著書多数。
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