饗宴外交の舞台裏 (164)

「最も招待客の多い外国公館」仏大使公邸を切り盛りする若手料理人

執筆者:西川恵 2012年1月26日
タグ: フランス 日本
エリア: ヨーロッパ アジア
日本レストランで働いた経験も持つマルタン氏(筆者撮影)
日本レストランで働いた経験も持つマルタン氏(筆者撮影)

 2012年の新年が明けて、フランス大使公邸の厨房をあずかる料理長のセバスチャン・マルタン氏(34)には、4カ月ぶりに忙しい日常が戻ってきた。1月6日、新任のクリスチャン・マセ駐日フランス大使が夫人と共に赴任してきたからだ。  前任のフォール大使が昨年9月に離任した後、主のいない大使公邸には静かな時間が流れていた。マルタン氏はふだんは出来ない食材の仕入れ先の開拓や、食器類、鍋類の点検、買い付けをして過ごしたが、新大使の赴任で公邸は再び招宴外交の場として動き出した。  マセ大使の最初のレセプションは1月12日、イエス・キリストが神の子として見いだされたエピファニー(公現祭)の祝宴で、日仏関係者約200人が招かれた。日仏の菓子職人が作った特別菓子「ガレット・デ・ロワ」を賞味する集いだったため、マルタン氏の出番はなかった。饗宴料理の初披露の機会は翌13日、来日したジュペ仏外相を囲む大使主催の夕食会となった。「忙しく立ち働いているのがいいです。緊張感と充実感がありますから」。公邸で働き始めて8年。仕える大使は4人目となる。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
西川恵(にしかわめぐみ) 毎日新聞客員編集委員。日本交通文化協会常任理事。1947年長崎県生れ。テヘラン、パリ、ローマの各支局長、外信部長、専門編集委員を経て、2014年から客員編集委員。2009年、フランス国家功労勲章シュヴァリエ受章。著書に『皇室はなぜ世界で尊敬されるのか』(新潮新書)、『エリゼ宮の食卓』(新潮社、サントリー学芸賞)、『ワインと外交』(新潮新書)、『饗宴外交 ワインと料理で世界はまわる』(世界文化社)、『知られざる皇室外交』(角川書店)、『国際政治のゼロ年代』(毎日新聞社)、訳書に『超大国アメリカの文化力』(岩波書店、共訳)などがある。
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