インテリジェンス・ナウ

インテリジェンスと国際政治に翻弄される天野IAEA

 5月8日、イラン西部アラク近郊で、国際原子力機関(IAEA)の査察官2人を乗せた車が交通事故に遭い、1人が死亡、もう1人が負傷した。死亡したのは韓国人、負傷したのはスロベニア人だった。韓国人査察官は元教育科学技術部所属の技官ソ・オクソク氏(58)。1998年からIAEAに勤務していた。
 報道を総合すると、2人はアラクにある実験用重水炉の査察に当たっていた。事故車はなぜか、道路を外れ横転した。テロ事件の可能性を示す兆候はこれまで見つかっておらず、単純な交通事故として片付けられた。
 IAEA査察官の仕事は危険を伴う。1978年には台湾の核施設査察中のフランス人査察官ピエール・ノアール氏が感電死する事件があった。当時台湾が核兵器開発を試行錯誤していたこともあり、死因を疑う向きもあった。
 イランの交通事故も核問題をめぐる国際的な協議を前にした微妙な時期に起きたため、IAEAに対する「報復か」とみる人もいる。

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執筆者プロフィール
春名幹男(はるなみきお) 1946年京都市生れ。国際アナリスト、NPO法人インテリジェンス研究所理事。大阪外国語大学(現大阪大学)ドイツ語学科卒。共同通信社に入社し、大阪社会部、本社外信部、ニューヨーク支局、ワシントン支局を経て93年ワシントン支局長。2004年特別編集委員。07年退社。名古屋大学大学院教授、早稲田大学客員教授を歴任。95年ボーン・上田記念国際記者賞、04年日本記者クラブ賞受賞。著書に『核地政学入門』(日刊工業新聞社)、『ヒバクシャ・イン・USA』(岩波新書)、『スクリュー音が消えた』(新潮社)、『秘密のファイル』(新潮文庫)、『米中冷戦と日本』(PHP)、『仮面の日米同盟』(文春新書)などがある。
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