国際論壇レビュー

米大統領選目前:選挙戦から見えてくるアメリカの現実

執筆者:会田弘継 2012年10月19日
エリア: 北米
激しい戦いを繰り広げるオバマ氏(左)とロムニー氏(c)AFP=時事
激しい戦いを繰り広げるオバマ氏(左)とロムニー氏(c)AFP=時事

「チェンジ(変革)」への熱気のなか、アメリカ史上初の黒人大統領としてオバマ氏が当選してから4年。その成果を総括する大統領選が目前に迫った。超大国アメリカが民主党オバマ氏の続投を選ぶか、共和党ロムニー氏に乗り換え、かじを切り直すか。結果が世界に及ぼす影響は大きい。ここで、選挙結果の予想をするつもりはない。アメリカの現状を少し深く考える糸口を探してみたい。

「黒人問題」はどこまで改善されたか

 米誌「アメリカン・インタレスト」9・10月号が、そのための優れた分析記事をいくつか載せている。黒人大統領を選び出し、その指導の下での4年間を送ってきたアメリカ。19世紀前半に訪れたフランスの青年貴族トクヴィルによって、この国の宿痾だと指摘された黒人問題は、どこまで改善されたのか。
 今日のアメリカ社会では、あからさまな人種差別はかならず非難を浴びる。だが「人種をめぐる新たな現実の姿をしっかり把握しないと、社会問題の分析を誤り、有効な解決策を見つけ出せなくなる」と、スタンフォード大法科大学院のリチャード・フォード教授は警告する。 【Black and White No Longer, The American Interest, Sept./Oct.】
 どのような新たな現実なのか。まず、黒人社会の分断・分裂だ。一方で、成功の道を歩み、高い地位を得る黒人が増えている。差別はなかなか消えないが、彼らにとってそれは「頭痛の種ではあっても、生活を脅かすようなものではない」。他方で、黒人貧困層は、差別撤廃を目指した公民権法成立以前よりも悪い社会状況の中に置かれている。「家庭崩壊、栄養不足、失業、犯罪、司法当局とのトラブル」がはびこり、貧困層にとって「社会的地位を上げるチャンスは、南北戦争以降で最低といえる」。

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執筆者プロフィール
会田弘継(あいだひろつぐ) 関西大学客員教授、ジャーナリスト。1951年生まれ。東京外語大英米語科卒。共同通信ジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長などを務め、現在は共同通信客員論税委員、関西大学客員教授。近著に『世界の知性が語る「特別な日本』』 (新潮新書)『破綻するアメリカ』(岩波現代全書)、『トランプ現象とアメリカ保守思想』(左右社)、『増補改訂版 追跡・アメリカの思想家たち』(中公文庫)など。訳書にフランシス・フクヤマ著『政治の衰退』(講談社)など。
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