「國立問題」その後:台湾総統夫人の仕切り直し訪日の意味

執筆者:野嶋剛 2014年8月3日
エリア: アジア

 台湾の周美青・総統夫人が7月31日に来日した。先日世間を騒がせた「國立」名称問題のトラブルで、台湾側の不満表明として開幕式典での訪日が取り消されていたが、今回は台湾の児童合唱団の名誉団長として来日し、8月4日には東京国立博物館で開催されている台北故宮日本展の展示品入れ替えイベントに出席するという。「國立」問題で周囲が驚くほどの「憤怒」を示したとされる馬英九総統だが、ポスターへの「國立」の文字追加などで日本側の「誠意ある対応」が見られたということで怒りも収まったようだ。

 私の聞く限り、台湾の政権内でも、この「國立」問題について日本側に抗議するのは当然としても、周夫人の訪日まで取り消してしまうのは、いささか行き過ぎた反応ではなかったかという意見がかなり出ていた。当時は台湾側もかなり興奮していて、開催時刻が近づくなか、日本側に期限を区切って厳しい要求をしていたこともあり、その流れのなかでは周夫人をスムーズに日本へ送り出しにくい雰囲気だったこともある。ただ、基本的に良好である日台関係のことを考慮し、その後、再度の訪日のチャンスを探していたようで、合唱団の訪日と展示品入れ替えというタイミングをうまく見つけたようだ。

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執筆者プロフィール
野嶋剛(のじまつよし) 1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)、『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)、『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)など。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『香港とは何か』(ちくま新書)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com
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