リビア・スィルトの「イスラーム国」掃討作戦は未だ完了せず

執筆者:池内恵 2016年11月7日
タグ: イラン シリア
エリア: 中東 アフリカ

「イスラーム国」の領域支配に対して、各国で掃討作戦が始まっている。イラク北部モースルでは10月17日から、イラク政府軍・協力民兵組織や、北部のクルディスターン地域政府のペシュメルガなどが、米国やイランに支援されて奪還作戦を行っている。シリア北東部のラッカに対しても11月5日からクルド人勢力主体のシリア民主軍(SDF)が、掃討作戦「ユーフラテスの怒り」を始めたという。

 それらの帰結はいつ、どのように明らかになるのか。単純に「『イスラーム国』がいなくなりました、国は平和になりました」とは到底なりそうにない。その理由は、第一に、そもそも紛争・内戦の渦中にある両国では「イスラーム国」は治安と秩序を乱す勢力の「ひとつ(ワン・オブ・ゼム)」でしかないことで、「イスラーム国」の制圧は紛争と内戦を終わらせることはないという単純な事実だが、第二に、「イスラーム国」が組織というよりは思想・イデオロギーであって、イデオロギーに感化される社会の成員がいる限り、何らかの形で存続してしまうことがある。そのような道筋を、今から想定しておくべきだろう。

カテゴリ: 軍事・防衛
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執筆者プロフィール
池内恵(いけうちさとし) 東京大学先端科学技術研究センター グローバルセキュリティ・宗教分野教授。1973年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より東京大学先端科学技術研究センター准教授、2018年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(講談社現代新書、2002年大佛次郎論壇賞)、『イスラーム世界の論じ方』(中央公論新社、2009年サントリー学芸賞)、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)、『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』 (新潮選書)、 本誌連載をまとめた『中東 危機の震源を読む』(同)などがある。個人ブログ「中東・イスラーム学の風姿花伝」(http://ikeuchisatoshi.com/)。
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